プロローグ読むと、
「こんな小説かな」
と軽く想像することってありませんか。
でも、だいたいが想像とぜんぜん違った方向に展開されていくんですよね。
今回読んだのは、芦沢央さんの『いつかの人質』です!
芦沢央さんの四作目になる作品です。
ここでは、『いつかの人質』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『いつかの人質』のあらすじ
宮下愛子は、幼いころに、母親に連れて行ってもらったショッピングモールで誘拐に会った。
そのときに、事故によって両目を失明。
それから十二年がたち、愛子は目が見えない中でも、明るく元気に育ってきた。
愛子の両親、特に母親は愛子が過去に誘拐されたことに責任を感じ、過保護になり、先回りしては愛子を危険から遠ざけようとしていた。
しかし、そんな愛子はまたしても誘拐されてしまう。
警察が捜査する中で容疑者として浮上してきたのは、十二年前に愛子を誘拐した犯人の娘であった。
プロローグ部分だけで作品になりそう……
誘拐するつもりはなかったのに、結果的に誘拐になってしまった親子。
親の元にすぐに返さなければと思った矢先に、少女が階段から落ちて大けがをしてしまう。
そこから、別の犯人がいるかに見せかけて、脅迫電話をかけ……。
もうこれだけで一つの小説になりそうですよね。
なんつうか、こういう発想がとてもすごい。
『汚れた手をそこで拭かない』などの短編集を読んでも思うことですが、ちょっとした日常の失敗から、問題を大きく広げるのがうまいんですよね。
でも、そこで終わらせないのが芦沢央さん。
プロローグから一気に十二年も先に進んでしまいます。
加害者も、加害者の娘も、被害者も、みんな十二年の歳月が流れ歳をとっています。
その十二年の間にはいったいどんな人生を送っていたのだろうかと想像力がかきたてられます。
親の愛は、ときに子どものためにならぬ
登場人物の一人である愛子。
幼いときに誘拐され、そこでの事故が原因で失明してしまいます。
母親は、目を離した自分が悪かったのだと、自分を責め、それ以降は、愛子を危険から遠ざけるために必死になります。
そのため、目が見えなくても友人も多い愛子だったけれど、友人同士だけで出かけることさえ許可してもらえません。
母親が先回りして、愛子が安全に過ごせるようにすべて片付けてしまいます。
それは一見、目が見えない娘を想う母親の愛。
でも、それがどこまで娘のためになっていたのか。
愛子は、母親がいるおかげで比較的安心して生活することができる。
その一方で、自分でどうすればいいのか、危険はないのかと考える力が養われていきませんでした。
どっちが正しいかって難しいとこですよね。
私も娘がいるから、
「それは危ない!」
「そういうことはしちゃいけない」
と失敗しないように、先に口にしてしまうことがよくあります。
失敗から学ぶことがある、という人もいれば、あえて失敗させる必要なんてない、という人もいます。
それはどちらも間違ってはいなくて、どちらかでなくてはいけないことでもない。
ただ、そこにあるのが、親のためになっていないかだけは考えなくちゃいけないなって感じました。
おわりに
芦沢央さんのデビュー作である『罪の余白』でもそうでしたが、割と対人関係に問題がある人を登場させるんですよね、芦沢央さんって。
それがいい味を出しているんですが、そういうキャラって、どうやって考えてるんでしょうね。
自分だと、そういう人の思考って理解できない部分が多くて、言葉にしていくのが難しい。
でも、芦沢央さんの小説では、違和感なく、
「うん、こういう人いる」
って思うんですよね。
さて次は、『雨利終活写真館』です。
これだけちょっとタイトルがほかの違う雰囲気で楽しみです。