就職活動って大変。
本当の自分なんてわからないし、自分がどんな風に進みたいのも余計に見えなくなってくる。
気づけばどんどんと嘘を重ねていって。
そんな姿がとてもリアルに描かれています。
今回読んだのは、浅倉秋成さんの『六人の噓つきな大学生』です!
とある企業の採用試験の最終選考を舞台とした物語です。
かなりリアルに就活をする学生の心情を描きながら、就活のおかしさも押し出しています。
たくさんの伏線と、見事なロジックで、読み終わったときに思わずため息が出てしまいますね。
ここでは、『六人の噓つきな大学生』あらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『六人の噓つきな大学生』のあらすじ
波多野祥吾の就職活動は終盤を迎えていた。
株式会社スピラリンクス。
注目を集めている会社の最終選考にまでこぎつけることができた。
最終面接には、波多野を含めて6人の大学生が呼ばれていた。
人事部長の鴻上から、最終選考は、1ヶ月後の4月27日、グループディスカッションを実施すると伝えられる。
テーマは、スピラリンクスが実際に抱えている案件を取り上げて、どうしていくべきかを討論するというもの。
内容によっては6人全員の内定もありえると言われ、直後にファミレスに集まり自己紹介をする。
定期的に集まっては、ディスカッションの対策を立てる6人。
次第に仲が深まっていき、全員で内定を勝ち取ろうという気持ちが湧き上がって来た中、鴻上から無情なメールが届く。
それは、ディスカッションのテーマと採用人数の変更であった。
採用人数は1人で、テーマは、「六人の中で誰が最も内定に相応しいか」とするというのだ。
四日間を呆然として過ごす波多野だったが、他企業の内定の話も出てきて気持ちを持ち直して最終選考当日を迎える。
最終選考は2時間30分。
それまでに一人を決めなければ全員が不採用となる。
波多野の提案で、30分ごとに多数決を行い、最後に総数が多かった人が選ばれるということになった。
ディスカッションが始まって、1回目の投票が行われる。
まだ穏やかに進むディスカッションだったが、投票してしばらくしたとき、部屋に不審な封筒があるのが発見される。
封筒の中には、6人それぞれに宛てたさらに小さな封筒が入っていた。
ディスカッションを中心となって回していた九賀が封筒を開いたところ、ほかのメンバーが過去に起こした事件に対する告発文であった。
いったい誰がどうしてこんなものを?
他の封筒には何が書かれているのか。
疑心暗鬼になるメンバー。
そんな中、2回目の投票時間を知らせるアラームが鳴り響く。
予測できない結末で手が止まらない!
『六人の噓つきな大学生』、今年読んだ小説の中でも、特におもしろかった!
就活を題材とした小説ってけっこうありますよね。
自分の内面と向き合ったり、就職活動そのものと闘ったり。
でも、これはちょっと趣が違う。
思いっきり事件が起きているんですよね。
最終選考が始まる前に、6人のメンバーがお互いを知り、だんだんと仲良くなっていきます。
みんないい人に見えて、全員で内定を勝ち取っていこうと仲間意識も生まれます。
そこからの、「採用は1人にします」なので、6人の雰囲気もがらっと変わっていく。
ここで読んでいてまず前提がひっくり返されます。
更に最終選考に入ると、封筒が開かれるたびに、その人の過去が暴かれて、見る目もどんどん変化していきます。
これまですごくいい人に見えていたのに、実はこんな人だったんだって。
犯人についても、こっちが犯人かと思いきや、いや実はその人には無理があるという議論も生まれ、就活ものなのに謎解きをしている気持ちになります。
これね、本当にいろいろと思うところを書きたいけれどそれはネタバレになるので、そちらについては別記事を書きます。
ともかく、私の中のどんでん返しがすごい小説の中に『六人の噓つきな大学生』は登録されました!
嘘だらけの就活
就職活動とは嘘だらけ。
自己分析とか、エントリーシートとか、まったく正直に書いている人っているのかしら?
大学時代に頑張ったエピソードはなんですかと聞かれ、盛らずに答えられる人って少ないのでは?
『六人の噓つきな大学生』の中でも、それぞれが、
「あのときは嘘ばっかりだった」
と振り返るんですね。
1回ボランティアを行っただけで、ボランティアサークルで活動していたとか、そんなにいるのかよってくらいに、サークルの代表をやっていた人がぽこぽこ湧いて出てきたり。
面接を繰り返すうちに、そうした嘘もどんどん洗練されていって、嘘をついているはずなのに、確信を持って話せるようになっていたり。
就職活動の怖さを感じますよね。
それでいて、採用側だって嘘ばっかり。
アットホームな会社です、個人の成長をサポートします。
でも入ってみたらそんなの関係なくて、さあ働け!ってな具合に。
実情と見せかけが違うのは就活生も企業も一緒ってことがよくある。
人事は優秀な人がやっているのかと思いきや、そうではないこともあったり、真剣に選んでいると思いきや、意外と単に好みで適当に点数をつけていたり。
そうした、就活の欺瞞を描いているところもかなりおもしろい。
でも、実際、就活をして採用をしてってなると、そうせざるを得ないところもあるんですよね。
どうせ採用するならいい学生。
そうなると、自然と本来の自分とはかけ離れた姿を見せなければいけなくなる。
企業も、とにかくいい人材を取るしかないんだから、うちの会社はいいですよってアピールすることになる。
なんなんでしょうね、これって。
それでも、そこに疑問を持ち始めたら就職活動なんてできなくなってしまうのかな。
おわりに
浅倉秋成さんすごいですね。
おもしろすぎた。
この次に出た『俺ではない炎上』もすごくよかったんですよ。
こちらはSNSで見に覚えのない事件の犯人として炎上する話なんですけど、かなりどきどきします。
まだお若い作家さんで、冊数もそんなに出ていないので、これから一気に全部読んでみたいなって思います。