人気作家の一人である朝井リョウさんのデビュー作。
今回読んだのは、朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』です!
第22回小説すばる新人賞受賞作であり、映画化もされたのでかなり有名な一冊だと思います。
もうこのタイトルだけで、
「これはいったいどんな本なんだ?」
と内容が気になってしまいますよね。
ここでは、『桐島、部活やめるってよ』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『桐島、部活やめるってよ』のあらすじ
バレー部の主将であった桐島が部活をやめるらしい。
はっきりとした理由はわからない。
バレー部内でうまくいっていなかったという話もある。
主将として厳しく部員に接し、仲違いもあった。
真意はわからないが桐島が部活をやめるといううわさが流れたことによって、様々な変化が起きていた。
いつも桐島の部活が終わるのを待ってバスケをしていた男子たちが姿を消した。
いつも体育館をバレー部が利用していたが、他の部活との交代制となった。
いつも桐島がいたからレギュラーになれなかった生徒が試合に出場することになった。
たった一つのできごとから、それは波紋のようには広がり、ほかの生徒たちの生活にも影響を与えていく。
桐島くんまったく出てこない!
『桐島、部活やめるってよ』で一番驚いたのはこれですね。
桐島くん、小説の中に一度も登場しないんですけど!
それなのにこの影響力ってすごいことですね。
それもそのはず、桐島くんはバレー部のキャプテンで文武両道で人気もあって、おまけに彼女もかわいい。
そんな桐島くんはいなくても存在感のある人。
タイトルでも堂々と名前が出ているのに、その桐島くんを登場させないっていうのが、朝井リョウさんの小説の見事さですね。
ぱっと考えると、このタイトルだと、桐島くんがやめるって噂が流れて、みんなが、「桐島やめないでー」とか言って、青春っぽく進むのを想像してしまいます。
想像力なさすぎでしょうか。
でも、こういう展開はあまりに想像してなかったのでなかなか衝撃的な一冊でした。
でも、桐島くんは本当にやめたのか?
タイトルは『桐島、部活やめるってよ』。
これだけ見ると、誰かのうわさ話の段階で、桐島くんが部活をやめたかどうかって実はまだわからないんですね。
小説の中には、桐島くんの彼女も出てきますが、いつも友人と彼氏を待っていたその彼女は、友人に今日は待つ必要がないからと告げます。
でもそのときも、桐島くんが部活をやめたからとは言ってなくて、行かなくなったからといったニュアンスだったと思います。
バレー部の部活でも、顧問からは、はっきりと桐島くんが部活をやめたという言葉は出ていないんですよね。
次のレギュラーとして、リベロの控えだった生徒を指名しただけで。
試合のキャプテンマークも副主将だった生徒がつけますが、別に主将になったわけでもない。
つまり、桐島くんが部活をやめたらしいといううわさが独り歩きしている状態なわけです。
それなのに、そのことがたくさんの人に影響を与えていくのだから、一人の人間の影響力のすごさや、うわさの恐ろしさをしみじみと感じます。
カーストの上でも下でも悩みはつきぬ
『桐島、部活やめるってよ』の中には、高校内でのカーストが如実に表れています。
桐島くんをバスケをしながら待っていた友人たちやその彼女たちはカースト上位。
映画部に所属している前田くんたちはカースト下位。
カースト上位の生徒が前田くんたちを見て、「ダサい」とか「キモい」っていうシーンもあれば、逆に前田くんが目立たないようにひっそりとしているシーンもあります。
お互いが自分の立場や視点で物事を考え行動するのが、よく高校生の実態を見ているなと感心します。
でも、上位だからといって悩みがないわけではない。
カースト上位ならそこの地位にふさわしい格好も言動もしなければいけないし、うまく周りに合わせて立ちまわらないといけない。
それが苦痛や負担になっている人もやはりいるものです。
逆にカースト下位で、周囲からバカにされていたって、映画部のように、本気で好きなものに打ち込んでいている人は、その瞬間は輝いて見えます。
立場に合わせた想像力がすごい
上記したようにカースト上位も下位もその間かなーという登場人物もいる『桐島、部活やめるってよ』。
その設定も展開も読みごたえがありますが、その心理描写や描いている行動が本当にリアルで、どうやってそんな想像力を身に付けたのかと驚きます。
ふつうに小説を読んでいて、どの登場人物も違和感ないんですよね。
自分はどちらかというと下位グループよりだったので、
「うわあ、こういう上位グループいたわー」
とも思いますし、逆に、
「そうそう。こういう場面ではこんな行動してしまう」
と感じます。
でもそのどちらもリアルに描けるのが本当にすごい。
たとえば、映画部が壇上で表彰を受けるシーンなんて、人気者の生徒からすると、目立つし、みんなにやったぜ!と見せれる場面です。
でも、下位の人からすると、さらし者にされている感が半端ない。
校長先生が映画のタイトルを言う前に、心の中で「やめてくれ!」と思う前田くんの気持ちは痛いほどわかる。
自然なことを自然のままに描く技術と想像力が見事です。
おわりに
『桐島、部活やめるってよ』は、今回で読むの2回目ですが、1回目に読んだときは、
「おーなるほど!」
くらいでしたが、改めていろいろと考えながら読んでみると違和感なくすっと読める良書であることがわかります。
小説って読んでいてどこか無理があるものもけっこうあるんですけど、そうしたものを感じさせない点がすごく好きでした。
小説すばる新人賞受賞作としては、個人的に好みのかなり上位となる小説でした。