夢とかやりたいこととか、きっと誰もが持っていた。
気づけばどこかに置いてきて、現実的な生き方をする。
そんな心を揺さぶる物語でした。
今回読んだのは、青羽悠さんの『凪に溺れる』です!
小説すばる新人賞を最年少の16歳という若さで受賞した青羽悠さん。
彼の二作目にあたる小説です。
タイトルがまた意味深ですよね。
凪って、風がなくて穏やかな海のはずなのに、そこに溺れるって。
どうしてこんなタイトルなのかを考えながら読むと、また楽しく読めると思います。
ここでは、『凪に溺れる』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『凪に溺れる』のあらすじ
赤いギターを抱いて歌い続ける霧野十太。
彼の作った『凪に溺れる』という曲が多くの人の人生を変えていく。
派遣社員の女性。
オリンピックを目指す水泳選手。
十太を神様と呼ぶ女性。
ライター。
プロデューサー。
バンドのメンバー。
しかし、十太は27歳でこの世を去ってしまう。
彼の中学時代から亡くなるまではどんな人生だったのか。
彼の代表曲である『凪に溺れる』や彼に関わった人たちの生き方が描かれていく。
相反するタイトル
『凪に溺れる』というタイトルに違和感を感じませんか。
凪って、風がなくて穏やかな海を指す言葉です。
それなのに、そのあとに溺れるという強い言葉がくるんですね。
だから、なぜこんなタイトルなのかって考えながら、本書を読み進めました。
正解はわかりませんが、きっと凪って、現実の世界なんだろうなって思います。
『凪に溺れる』の中では、夢や希望を持ちながらも、そこから離れ、どこかに置いてきて、ふつうの生活を選ぶシーンが出てきます。
ほとんどの人ってそうだと思うんですよね。
バンドをしていても、メジャーデビューして成功を掴むのはごく一部。
それ以外の人は、どこかで折り合いをつけて、就職したり、自分なりの生き方を選んでいきます。
穏やかであり、幸せな生活。
それがきっと凪なのだろうなって。
でも、ずっと心のどこかに、
「本当にこれでいいのかな」
って気持ちがくすぶり続けているんです。
十太が亡くなったあと、彼がどう生きたのかを追っていったのは、なにかを感じたかったから。
溺れるって言葉。
苦しいんですよね、目を背けて、夢を捨てて生きることって。
だから人は、自分が納得をいく答えを探します。
そんな答えがあって初めて、いまの自分の幸せを心から受け止められるのだろうなと。
ずっと遠くに行ける気がする
凪。
穏やかな海を眺めていると、ずっとその先に自分もいけるような気がしてくる。
波のない海に漂い空を見上げると、空が近づいてきて、手が届くような気がする。
以前、スキューバダイビングをしていましたが、そのときって、よく海に浮かんで空を見上げていたんですよね。
いつもの悩みやしがらみがちっぽけなものに感じて、なんだかなんでも頑張れるような気持ちになる。
それと似たようなことが起きているのかなと感じました。
人生の中で、なにも願望がなかった人っていないでしょう。
明確な具体性がなくても、誰にだって望みはあるものです。
そこに向けて一歩踏み出すかどうか。
そのきっかけとなるものが、本書の中では、十太が歌う「凪に溺れる」なんでしょうね。
挑戦してみて、うまくいくかなんてわからない。
でも、足を止めずに進み続けた人だけが、そこに到達できる。
私の望みってなんだったっけ、と本書を読んだ人は思うのではないかな。
おわりに
さて、青羽悠さんの小説を読むのはこれで三冊目です。
2022年9月現在、発刊されているものは全部読みました。
デビュー作の『星に願いを、そして手を』は、夢に想いを馳せる男女の話でした。
そして、『凪に溺れる』もまた、自分の今よりももっと先を見つめて、進む原動力をわきたててくれる、そんな小説でした。
デビューが16歳で、学生だったということもあり、刊行自体はゆっくりですが、大学卒業したあとはもっとたくさん書かれるのかな。
この先、どんな作品が出てくるのかとても楽しみな作家さんです。