小説を書く

小説家には2種類ある。兼業作家のメリットと専業作家になるタイミング。

小説家には、専業作家と兼業作家があります。

小説家一本で生きている人と、小説家以外に本業があったり、アルバイトなどで収入を得ている人ということですね。

小説家になりたい!という人であれば、イメージしているのは専業作家だという人が多いと思います。

ただ、これがすごく大変なんです。

ネットで専業作家と入力すると、そのすぐあと出てくるのは、「厳しい」、「失敗」、「しんどい」の文字。

こんなはずではなかったということもネットには山のようにあります。

それでも小説家になるなら、いつかは専業作家になりたいですね。

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デビューしたらまず言われるのが「仕事は辞めないでね」

何かしらの新人賞に受賞し、

「これで私も小説家だ!筆一本で生きていくぜ!」

と決意を胸に抱いているときに担当編集者さんが言う言葉。

「仕事は辞めないでね」

もう、一気にテンションが下がりそうですね。

でも、これは意地悪で言っているわけではありません。

多くの作家は、小説だけでは食べていけていないからです。

担当さんの優しさというわけですね。

小説家の収入って売れている人はとんでもないけど、デビューしたばかりだと大した金額は稼げません。

ふつうに会社員をしていたほうが年収いいし、労力の割に薄給という。

それでもあっさり仕事を辞めちゃう人もいるみたいです。

賞金も印税もあるので、一時的には生活はできるかもしれませんが、そこで途切れれば、あとは苦しい生活が待っているだけです。

専業作家・兼業作家についての作家の声

朝井リョウさん

今は専業作家だけどかつては兼業作家だったという方は結構います。

そして有名になっても兼業作家のままの人もいます。

そうした作家さんがどんなことを考えているのか紹介します。

まずは、デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』が大ヒットした朝井リョウさん。

デビューしたのはまだ大学生のときだったんですね。

でも、大学3年生になるとふつうに就活を始めて、3年間社会人と働いた上で、2015年から専業作家になりました。

その理由を次のように語っています。

東京ではない場所に仕事場を構えて臨む仕事の依頼をいただいたからです。物凄く悩みましたが、引き受けることに決めました。また、膨大な量の資料を読み込み、勉強もしなければならないので、時間的な面でも兼業だと厳しいだろうな、と感じました。

(LITERAのインタビューより)

作家になって5年たった頃の話で、朝井リョウさん自身、自分が小説家として手を伸ばす範囲が見えかけていた時期だったそうです。

そこに、自分からは手を伸ばさないジャンルの話が舞い込んできたとのことです。

それを受けるか受けないかで作家としての成長が止まるか止まらないかが決まる、と考え、仕事を受けて専業作家となったそうです。

作家としての成長ってかっこいい言葉です。

八木圭一さん

2013年に宝島社第12回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した八木圭一さん。

受賞作である『一千兆円の身代金』は、香取慎吾さん主演でドラマ化されました。

元々会社員として働いていましたが、受賞した段階で、専業作家になることは考えていなかったようです。

ただ、執筆の時間を確保するために転職をしています。

普段手に取らないジャンルの本も読むので勉強になりますね。それだけでなく会社組織に身を置くことで葛藤なども生じ、それも作品作りにつなげられます。兼業作家だから得られるもの、書けることもあるでしょうね。

(マイナビ転職のインタビューより)

と話しています。

一方で、平日は仕事、休日を使って執筆をするため、プライベートの時間や睡眠時間は削られるし、体力的にも厳しいとも話されています。

また、独立のタイミングについては、「これ以上、小説の仕事が受けきれなくなった時」と目標を持っているとされていました。

知念実希人さん

知念実希人さんは、小説家でありながら医者として活躍されていることは有名ですね。

作品にも、現役の医者だからこそ書けるような内容がたくさん出てきます。

『誰がための刃 レゾンデートル』で第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞してデビュー。

三作目の『仮面病棟』が大ヒットし、映画化もされました。

『天久鷹央の推理カルテシリーズ』や『優しい死神シリーズ』とたくさんの人気作を出しています。

その知念実希人さんは、本業があることについて次のように語っています。

ご存じの方も多いと思うが、私は内科の医師をしながら執筆活動を行っている。当然のことだが、私の(特に内科学に関しての)医学的知識は他の作家の追随を許さない。その分野のプロフェッショナルなので、当然のことだ。

(中山七里・知念実希人・葉真中顕『作家超サバイバル術!』「作家とインプット」より)

実際に経験した事柄は、どんな詳しい知識よりもはるかにリアルに物語を彩ることができる。たとえ、医学書を読んで完璧な医学的知識を得たとしても、私以上に医療小説をリアルに描くことは不可能だ。

(中山七里・知念実希人・葉真中顕『作家超サバイバル術!』「作家とインプット」より)

他の作家の追随を許さない、と言い切れるなんてかっこいいですね。

自分の得意分野、専門分野があることが小説家にとってどれだけ武器になるかがわかります。

中山七里さん

中山七里さんは、2009年に『さよならドビュッシー』で第8回このミステリーがすごい!大賞を受賞してデビューしました。

このとき48歳でしたが、毎年数多くの小説を世に送り出しています。

デビュー10周年にあたる2020年には、新作単行本12か月連続刊行なんてとんでもないことをしています。

また、2018年に刊行された『護られなかった者たちへ』は2021年に映画化されて大ヒットを記録しています。

中山七里さんは、デビュー当初は会社員との兼業作家でした。

しかし、人気となり、連載を6本抱えたときに、有給使い切っても両立が難しくなったため、専業作家となっています。

連載って1本あるだけでも凄いことなのに、それが6本なんて信じられませんね。

YouTube(たしか有隣堂のチャンネル)で中山七里さんの1日の生活を追ったものがありましたけど、同じ生活をしたら体が壊れてしまいそうな勢いです。

そんな中山七里さんは、専業作家は少ないと言います。

だがこの専業作家、存外に数が少ない。つごう四〇人ほどの編集者に確認したところ専業と呼べる作家は一〇〇人から二〇〇人との回答を得た。日本文藝家協会の会員だけでも約二五〇〇人がいる事実を考えあわせてもいささか少なすぎる感がある。

(中山七里・知念実希人・葉真中顕『作家超サバイバル術!』「作家とおカネ」より)

これが実情と言われると専業作家になるのって、夢のまた夢ではないかと思わされてしまいます。

兼業作家にもメリットはある!

とはいえ、兼業作家ってそんなに悪いものではないと私は思うんですよ。

〇本業があるため、経済的に安定している。

〇経済的な心配がない分、精神的に安定して執筆にのぞめる。

〇仕事で得た知識、経験を執筆に活かせる。

〇執筆以外の世界があるので視野が狭くならない。

〇人や社会とのつながりを保つことができる。

やはり一番大きいのは、経済的な部分かなと思います。

小説家の収入って本当に安定していません。

誰もが知るような売れっ子作家になれば別でしょうが、そうじゃなければ、10年後にいきなり依頼がなくなることだってあります。

自分一人で生きていくならそれでもなんとかなるでしょう。

でも、結婚して子供がいたりすると、ある程度以上の収入はないと苦しいですよね。

売れないことで、生活が苦しくなり、精神的に追い詰められるのが一番怖い。

また、上記したように、仕事が執筆に活きることもあります。

知念実希人さんのように、プロフェッショナルなものがあれば最高ですし、そうでなくても、他の作家さんでは描けない世界を創り上げることができる可能性が生まれます。

もちろん、デメリットもあります。

時間はなくなるし、体力的にも厳しい。

家族との時間も執筆に削られて減っていく。

職場だって、良い顔をしてくれる人ばかりとは限りませんよね。

どちらを選ぶにしたっていいことも悪いこともあるってことです。

専業作家にはどのタイミングでなるべき?

別になれなくていいと思うんですよね。

本業しながら、気ままに小説が書けるならそれが幸せだし。

でも、憧れはありますよね。

自分の仕事は小説家だって堂々と名乗って、著作をバンバン出せたらなんて楽しいのでしょうか。

とはいえ、タイミングを見誤ると大変なことになります。

専業作家を考えるときってどんな条件があるでしょうか。

〇経済的に余裕があるとき。

〇執筆の依頼が増えて、本業をしながらだと難しいとき。

〇人気が出て、執筆だけで生きていけると確信したとき。

〇家族の理解が得られているとき。

こんなところでしょうか。

家のローンなどが残っている場合は、それをすべて完済してからじゃないと怖いですね。

子どもの教育費とか、貯金とかもある程度しておかないと、万が一、売れなくなったときのことを考えると仕事を辞めるのはハイリスクです。

もし、私だったら、ローンが何もない状態で、貯金が2000万円、仕事もそれなりに舞い込んできているとなれば専業作家もいいのかなと感じます。

いや、それでも怖いな、この辺りの肌感覚は人によりけりです。

もちろん、やっていけるという自信があれば、退路を断って進んでいくこともできるっちゃできます。

ただ、兼業作家であることは、今の時代割とふつうなことです。

堅実に人生プランを考えていくことがおすすめです。