伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』書評。「俺にとって残っている武器は、人を信頼することくらいなんだ」

同じような内容の小説でも、構成の仕方一つでその小説のおもしろさがかわります。

この作品は、構成が見事で読んでいてどきどきが止まりません。

今回紹介するのは、伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』です!

2008年に本屋大賞、第21回山本周五郎賞を受賞した人気作です。

2009年には『このミステリーがすごい!』にも選ばれていました。

『ゴールデンスランバー』は5つの章にわかれています。

首相がパレードの最中に殺されるという事件を、前半で周りから見た事件であったり、20年後から見た当時の話などを描き、後半(主に4章の「事件」)で実際のところを描くという構成になっています。

いろんな伏線もきれいに後半で回収していくし、ほかの伊坂作品に出てくる人の影もあり、さすがの一言です。

ここでは、『ゴールデンスランバー』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『ゴールデンスランバー』のあらすじ

首相を選挙で選ぶ制度がある日本が舞台。

仙台市では新しい首相となった金田貞義の凱旋パレードが盛大に行われていた。

そのパレードの最中、どこからともなく飛んできたドローンが爆発し、首相が暗殺されてしまう。

仙台市が未曽有の混乱に陥り、原因や犯人捜しが行われると、一人の容疑者の名前が挙がってくる。

青柳雅春。

彼は元宅配業者であり、数年前に偶然にも暴漢に襲われていたアイドルを助けたことによって、一時人気を博した男であり、地元では誰もが知る人物であった。

それと同時に、青柳がドローンを買っていたという証言や、立ち寄ったとされる店の情報が次から次へと出てくる。

首相暗殺から二日後。

ついに警察も青柳が市内の公園に現れることを突き止め、公園を包囲するのであった。

 

 

一方で、当の青柳は、事件当時、久しぶりに大学時代の親友である森田森吾に呼び出されていた。

森田には、痴漢の冤罪から助けてもらったこともあり、その話をすると、森田はあれは仕組まれていたことだったのだという。

さらには、「お前、オズワルドにされるぞ」と森田はいうのであった。

その直後に首相は、ドローンの爆発により暗殺されており、それと時を開けずに警官が2人のところにやってくる。

森田から「お前は逃げろ」と促された青柳は、その場から逃げ出すが、森田は乗っていた自動車ごと爆殺されてしまう。

その頃、街中では早くも青柳の顔写真や映像がくり返し流され、首相暗殺犯として大々的に報道されていた。

青柳は、大きな何かが、自分を犯人に仕立て上げようとしていることに気づく。

青柳は大学時代の後輩や元交際相手など多くの人の助けを借りながら逃走を繰り返していく。

つながりや信頼の大切さを感じる物語

『ゴールデンスランバー』では、最初は客観的な視点から、首相暗殺事件の報道を見ていきます。

それだけ見ると、完全に犯人は青柳雅春で決まり!と感じます。

報道でも、次から次へと、青柳が犯人だと断定できるだけの証拠が集まっていきます。

以前、アイドルを救ったときの映像からも、悪く見えるところだけを切り取ったような写真が使われたり。

そのときのことだって、自作自演だったのではないかといわれたりもします。

大きな組織に個が立ち向かうことはできるのか……。

そんなことを考えてしまいますね。

世間がもう犯人は青柳だと考えている中でも、青柳をよく知る大学の後輩であった小野や、元交際相手の晴子は青柳はそんな人物ではないと信じます。

こうした人たちの助けもあって、青柳は何度も窮地を救われます。

人とのつながりや信頼というものの暖かさや重要性を感じますね。

『ゴールデンスランバー』の中でも青柳は、

「俺にとって残っている武器は、人を信頼することくらいなんだ」

(伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』「事件」より)

といいます。

誰がいつ裏切るかもわからない中、それでも昔の仲間を信じる青柳の姿は素敵だなと感じます。

『田中』という男!

伊坂幸太郎さんの小説をずっと読んでいる人は「おや?」と思ったのではないでしょうか。

病院で足を骨折したとして現れる田中徹という男!

わりと重要な役割を担っているこの男ですが、これって『オーデュボンの祈り』に出てくる右足を引きずっている田中のようです。

まさかこんなところでと、にやりとさせられます。

このとき35歳。

ほかにも花火会社の轟社長も、『オーデュボンの祈り』で唯一、島の外と連絡を取っていた熊のような轟さんです。

こういう繋がりというかリンクがあるから、伊坂さんの小説は丁寧に読まないといけないなと思わされてしまいますね。

おわりに

『ゴールデンスランバー』は文庫本にすると600ページを超える大作なので、ちょっと読もうか躊躇するところがありました。

でも、読み始めたらまったく手が止まらず、あっという間に読み切れてしまいました。

伊坂さんの作品って、ボリュームのある小説が多いですよね。

その分、伏線も多く、それでいてきれいに回収しているので、読了後の満足感がすごいです。

また、上記したように、他作品の登場人物がちらっと出てきたりするので、もう伊坂さんの作品はぜんぶ読みたくなってしまいます。

映画にもなっているのでそちらもあわせてみてみるとおもしろいなと思います。