「ルビンの壺」って聞いた覚えはありますか?
教科書で多くの人が見たことがあるとある絵。
人によっては壺にも見え、人によっては向き合った男女に見える。
いわゆるだまし絵というやつですね。
それをテーマに持ってきた小説がありました。
今回読んだのは、宿野かほるさんの『ルビンの壺が割れた』です!
YouTubeの『ほんタメ』で紹介されていたので手に取ってみましたが、これはなんとも興味深い小説でした。
うん、あくまで興味深い小説であって、おもしろいかと言われると、賛否両論あるって言われるのがわかるなーといった感じです。
思うところはあれど、個人的にはおもしろく読めました。
途中何度も、
「こういう話かな?」
と想像するのですが、予想とは違う方向へ広がっていってよいものでした。
ここでは、『ルビンの壺が割れた』のあらすじや感想を紹介します。
Contents
『ルビンの壺が割れた』のあらすじ
「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」
男性がそんなメッセージを送信した相手は、かつて恋人だった女性であった。
約30年ぶりのSNS上での再会となる。
久しぶりにこの人はと思い、懐かしくなって連絡をしたのだ。
男性は、女性がなぜ結婚式の当日に姿をくらませてしまったのかをずっと気にしていた。
しかし、女性もすでに別の男性と結婚している身。
思い出話から始まり少しずつ本題に切り込む男性。
一方で、返信はするものの、どこか男性ほどの熱が感じられない女性のメッセージ。
メッセージのやり取りで進む二人の邂逅の果てにあるものとは。
読み返したくなる見事なストーリー
30年ぶりにSNS上で再会した男女のやりとりで構成される『ルビンの壺が割れた』。
一般的な小説の形と少しずれていますが、それでも読み返さずにはいられない見事なストーリーになっています。
私は読み始めたときは、
「どうにも粘着質なストーカーっぽい男なんだろうな」
と考えながら読んでいました。
メッセージを送って、返信がないまま、翌年また送る。
そのさらに翌年に三通目を送る……。
その時点でなんつーしつこい男だって思いますよね。
でも、読み進めていくとどうも様子が違ってきます。
不義を働いたのは女性の方?みたいな場面も。
それでも最後まで読むと、それまでのメッセージに書かれた言葉一つ一つが別の意味を宿していき、ぞっとしたものが背中を駆け上がります。
これだけ読み返したくなる小説って少ないなという気持ちにも。
私がこれまでに、読了後すぐに読み返したくなったのって、乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、東野圭吾さんの『私が彼を殺した』などです。
それに匹敵するくらい読み返したい願望が湧き上がりすぐに二回目に突入してしまいました。
文章量は少なく、読むのは比較的簡単
最初に『ルビンの壺が割れた』を手にしたときに思ったのは、
「むむ!この本薄いっ!」
ということでした。
単行本で156ページで終わるんですよね。
以前に読んだ宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』も200ページ足らずで少ない印象でしたがそれよりもさらに短い。
小説の良し悪しって文章の量ではないなと思いました。
しかも、メッセージのやり取りで改行もかなりあるので、ふつうに小説を読むよりも早くすすむのではないかなと感じます。
早い人なら一時間。
ゆっくり読む人でも三時間あれば読み切れてしまうんじゃないかな。
その分、読み返すことに抵抗もなくなりますし、せっかくだし読んでみようかなと思った人も、ぱっと手に取りやすいかなと。
SNSって怖いものよ
読み終えて思うのは、
「とりあえず、SNSには気をつけよう」
というとても現実的な話。
いやね、ネットって怖いものだなと思わされます。
なにがどう繋がるかわからないし、どう情報が表に出てしまうかもわからない。
SNSだけだと、相手のいい面しか見えないことも多々。
相手の悪意がどう介在しているのかって気づけないものです。
自分もそうだし、将来子どもにもそうした危険がないように、ネットリテラシーの話はしていかなくてはと感じます。
丁寧なふりして近づく人ほど危険なもの。
おわりに
結局、三回も読んでしまったのですが、決して好きな小説ではありません。
好みではないけれど、おもしろいと思い、ついつい三回も。
あまりこうした作品がない分、考えさせられました。
しかし、ルビンの壺が割れたってタイトルがまた。
最初はあった男女の姿が壺が割れたことによって、消失するんですね。
そうした意味も込めた小説だったのでしょうか。
その辺の意味づけとかどっかでインタビューとかあると嬉しいんですけど、著者の情報が少ないひとのようなのでそういうことはなさそうですね。
その次の作品も出ているようなので手に取ってみようと思います。