1年は365日。
冬至の時期だとか、日食が起きる日とか、ニュースでも当然のごとく報道します。
でもそれってすごいことなんですよね。
天と地の動きを理解して、暦という概念を生み出し、それを正確なものにする。
現代なら当たり前のことも、コンピューターも何もない時代にはどうやって測っていたのでしょうか。
今回読んだのは、冲方丁さんの『天地明察』です!
2010年の第7回本屋大賞受賞作になります。
舞台は江戸時代。
800年続いた暦の改暦に携わる人たちの話です。
現代と違って当然コンピューターもなく、頼れるものは自分たちの目と足と頭。
先人たちの偉業に心が熱くなります。
ここでは、『天地明察』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『天地明察』のあらすじ
舞台は江戸時代前期。
碁打ちの名門に生まれた安井算哲、又の名を渋川晴海。
晴海は、仕事として位の高い人たちに指導後を行っていたが、決まりきった手を打たなければならないそうした碁に飽きていた。
晴海の興味があるものは、算術と星であった。
そんなとき、彼が知ったのは、算額奉納された絵馬があるという話だった。
勢い込んで神社を訪れた晴海は、一面に連なった絵馬に感動をする。
絵馬には算術が書かれ、誰でも解答を記していいことになっていた。
そして、間違っていれば「誤謬」、正解であれば「明察」といったように、正誤が書かれることになる。
晴海も挑戦するが、なかなか答えらえない問題も多かった。
だが、晴海が少し目を離した隙に、何者かが絵馬に答えを書き記していく。
わずかな時間で解かれた答え。
いずれも、「明察」であった。
解答をした同年代の関という人物に興味以上のものを持つようになる。
しかし、晴海は、関に会うことなく、会津藩主・保科正之の命により、北極星を観測し、土地の緯度を計測する旅に出ることになる。
旅の最中、それまで使われてきた暦にずれが生じていることが発覚する。
一年を超える旅から戻った晴海だったが、ゆっくりと休む間もなく、次の話が舞い降りてくる。
それが改暦であった。
その大事業の中心者に晴海は抜擢されてしまう。
当時、暦は、朝廷が権威を持つものであった。
自分たちの利益を求める権力者、星の動きという難解なものへの挑戦。
晴海は、天と地をつまびらかにするために、長い年月をかけた闘いに挑んでいく。
人生をかけて成しえたいことはあるのか。
読み終わって、大きく息を吐いて余韻に浸ることのできる一冊でした。
一つの事業を完遂するということがいかに偉大なことであるか。
それを500ページほどの物語で私たちに教えてくれています。
生き方というか、生き様というか。
自分が生涯をかけてまで成してみたいことってあるのかなって考えさせられます。
主人公である渋川晴海は、碁の名門の一人として、登城しては、指導碁をしたり、将軍の面前で碁を打つことができる立場にいました。
正直、それだけで一生、食いはぐれることなく生きていけるんですよね。
本人さえそのことに納得していれば、周囲から見れば、大成功を果たした一人でした。
でも、わずか二十二歳にして、その生き方に飽いてしまっていた。
同年代の本因坊道策にライバル視され、情熱を持って対局を挑まれても、のらりくらりとかわしていく。
晴海の心を動かすものは、算術であり、星であった。
そこそこの趣味として楽しむことだってできたのに、気づけば算術を頭に思い描いてしまう。
不器用な生き方だなって思う反面、それほど好きなものを一途に思えることをうらやましくも思えます。
大人になればなるほど、どんどん現実を考えてしまう。
いまの仕事はこれで、家族がいて、養っていくためにはなにが必要で、なにが余分か。
30歳、40歳にもなって夢を追う人ってかなりめずらしいですよね。
私もどちらかというと、現実的な思考です。
正直、いまやっている仕事は、それなりに給料ももらえるし、仕事自体も嫌いではない。
妻と子どもがいるし、独身ならともかく、いま仕事を辞めて、やってみたいことに挑戦しようとは思わない。
それが生き方としてはかしこいと思いながらも、それでも憧れのような気持ちはたしかにあるんですね。
もし、本気でやりたいことがあるのなら、そこに挑戦するのは素敵なことだと思う。
でもそのときに、そこにかかる労力や時間ってすごいものがあります。
それを考えた上でも踏み出せるのか、それとも、最初からそんな思考にもならずにリスクを考えずに突き進める人が、大願を果たすことができるのでしょうか。
誰かの想いを受け継ぐということ
晴海は、改暦の中心人物として活躍するわけですが、それは元々晴海が望んで始めたことではありませんでした。
それがまた、『天地明察』の素敵なところだったなって思います。
北極星の位置を観測するために晴海は1年を超える旅をします。
その途上、二人の人物から夢を聞かされます。
一人はその旅の途中に体調を崩し、成果を見ることなく病に倒れてしまう。
もう一人も、夢を果たすことなく散っていく。
二人から託されたその夢を、晴海は実現していきます。
そしてそのことが、晴海の改暦という大事業にも大きな影響を与えていくんですね。
改暦自体も、保科正之や、水戸光圀といった時代を動かす人々からの要請を受けてのものでした。
それでも、応援してくれる多くの人の想いを受けて、それがあったからこそ晴海は最後まで全力を尽くすことができた。
自分だけでない、誰かの想いを受けて、誰かのためにという気持ちが、人を大きく前進させる原動力になる。
それって、小説の中だけのことではないのだと思います。
大きなことではなくたって、身近なところにもそうした想いを託していくことってあるんだろうなって。
自分がこれまで生きてきた中で、どんな人から何を受け取ってきたのか、これから自分が誰にどんなことを託していくのか。
人生って、いつまでもあるようでそんなことはない。
だから、こうしたことも一つ考えてみることが大事だと思います。
おわりに
平成21年に発刊された『天地明察』ですが、いま読んでもなお面白い。
さすがは本屋大賞受賞作ですね。
映画も大ヒットしましたし、当時はメディアでもかなり取り上げられていました。
暦といえばカレンダーくらいにしか考えたことなかったですが、これ一つを生み出すためにどれほどの人たちが尽力してきたのかと思うと感慨深いものがあります。
そう考えていくと、私たちの身の回りにあるものや、法律とか制度とか、考え方なんかにも、多くのドラマが込められているのだと感じます。
一つまた違った視点で人生を見ることができるようになる一冊でした。