小説を書くということは苦しいもの。
産みの苦しみなんて言葉もあるくらいに、どんなに求めても簡単にいくものではない。
今回読んだのは、奥田亜希子さんの『透明人間は204号室の夢を見る』です。
奥田亜希子さんは、2013年に、第37回すばる文学賞を受賞してデビューしています。
デビュー作は、『左目に映る星』という小説です。
すばる文学賞からのデビューなので、純文学を書かれる作家さんになるのだと思います。
『透明人間は204号室の夢を見る』でも、主人公の内面をしっかりと掘り下げています。
ここでは、『透明人間は204号室の夢を見る』のあらすじや感想を紹介していきます。
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『透明人間は204号室の夢を見る』のあらすじ
23歳になる実緒は、暗くて地味で、コミュニケーション能力に欠けている。
学生時代も周囲とうまく付き合うことができず、唯一の逃げ場所が本であった。
そんな実緒は、高校3年生のときに、ある出版社の小説の新人賞を受賞する。
ペンネームは「佐原澪」。
高校生の受賞ということで話題にもなり、周囲からの目もそのときは一気に変わった。
だが、6年経った今、実緒は小説が書けなくなってしまい、深夜のアルバイトや、雑誌の小さな記事を担当して生計を立てていた。
もう、だれにも自分の小説は見えていないのではないか。
実緒はそんな思いを抱くようになっていく。
実緒のデビュー作は、ほとんど姿を消したが、ある書店の本棚に、自分の本が置かれているのに気づいた実緒は、それ以降、本を誰かが手に取らないかと監視するのが日課となっていた。
するとある日、実緒の本を手に取る大学生風の男の姿を目撃する。
その男は、結局買わずに本棚に戻したが、実緒は思わず彼の住むマンションまであとをつけてしまう。
それから、実緒はこれまで一行も小説を書くことができなかったのに、一気に掌編小説を書き上げることができた。
そして、実緒は、その小説を、デビュー作を手に取ったその男性に読んで欲しいと思い、それ以降、書いては男性の郵便受けに入れるようになる。
小説家ってけっこうシビアなお仕事
高校生のときに小説家デビュー!
それだけ聞くと、なんて順風満帆で将来が約束されて羨ましい!
なんて思ってしまうんですが、現実はそんなに甘くはないんですね。
一作目は高校生が新人賞を取ってデビューしたということで注目を集めたけれど、それ以降はさっぱり売れず。
実緒自身も、小説を書くことができなくなってしまい、担当さんの紹介で雑誌の記事を書く仕事をあててもらう。
でもそれだけでは生活ができないから深夜にバイトをする日々。
実緒自身がちょっと変わった人でもあるので、同じようには考えられませんが、専業作家ってごく一部だってことはよく言われますよね。
小説家として小説を書くかたわら、本業があったり、アルバイトをしたりすることって珍しくもなんともない。
一時的に注目を集めて、華々しい瞬間があっても、それが過去になってしまえばあっという間に忘れられてしまう。
ちょっと、小説家の現実を突きつけられているような感じもします。
世の中、楽な仕事なんてないと思いますが、小説で生きていくっていうのは、本当に厳しいんだろうなと。
主人公がけっこうヤバい人
主人公の実緒。
けっこうヤバい人ですよね。
あらすじに書いた部分だけでもぶっ飛んでるな……と。
そもそも、書店で偶然見つけた自分の単行本を、誰かが買っていかないか見守る日々ってのがヤバい。
気になるのはわかります。
同じ立場なら、「売れないかなー」と思います。
それが日課になっている時点で、ちょっと、「ん?」となります。
でも、ここまでならまだいいんですかね、誰にも迷惑かけてないし。
そこから、男性を追いかけちゃったのがまたヤバい。
いや、ふつう追いかけませんよ?
買ってくれなかったのを残念とがっかりするくらいなもんです。
しかし、実緒はがっつりあとをつけます。
家を見て、ポストを確認し、あまつさえは、自分が書いた掌編小説をポストイン!
もう、読んでいて、「なぜ???」と疑問だらけの行動です。
そのあとも、
「そんなことしちゃうの?」
ということがたくさんあるんですが、それは小説を読んでもらえれば。
ヤバい人だなと思いつつも、読んでいると次の行動が気になっちゃうから、私もまんまとやられているんだろうなって思います。
これくらい個性的な主人公なのが逆にいいのかもしれません。
誰かに気づいてもらうこと
さて、ちょっと真面目に。
誰にも存在を知られないって、けっこう悲しいことです。
本当に知られていないわけじゃないんですよ。
でも、そう感じるくらい孤独なときって、誰にでもあるような気がします。
家族がいたって、友人がいたって、そんな心境になることってきっとあります。
実緒の場合、またケースが違いますが、自分が周りから見えていない、透明人間のように感じるって、かなりきついですよね。
だからこそ、本を手に取っただけの男性に執着をしてしまったのかなと感じます。
見てくれる人がいる。
自分を知ってくれている人がいる。
それは良くも悪くも、人に大きな影響を与えることなんだろうと。
人生振り返っていくと、そんな気持ちを持ったときもあったなあ。
ただ、いま思えば、周りに人はいたし、自分で見えなくしていただけなんだろうなと。
透明人間になるって、結局、自分でそうしちゃっているんだろうなと。
でも、そこに気づくことって難しい。
おわりに
ふだん、あまり純文学の小説って読まないので不思議な感じでした。
又吉直樹さんの『火花』とか、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』みたいな有名なのしか読んでなかったので。
うん、でもたまにはこうした本を読むのもおもしろいです。
人間ってなんなのかなって考えさせられます。
調べてみると、純文学を書いている人にも、名前を聞いたことがある人ってけっこういるんですね。
これからはそうした小説も少しずつ読んでみようと思います。