世の中には、思っている以上に知らない仕事や知らない世界があります。
公正取引委員会って言われてピンとくる人って少ないですよね。
私もなんか耳にしたことがあるけど、なにかはよく知りませんでした。
今回読んだのは、新川帆立さんの『競争の番人』です!
『元彼の遺言状』でこのミス大賞を受賞してデビューした新川帆立さん。
『競争の番人』では、公正取引委員会が舞台となっています。
そもそも公正取引委員会ってなに?ってところからですよね。
どんな組織で何をしているのかもばっちり理解できます。
この感想を書いている時点で、『競争の番人』、『競争の番人 内偵の王子』と出ているので、合わせてあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『競争の番人』のあらすじ
公正取引委員会の審査官として働いている白熊楓29歳。
白熊は、談合疑惑の聴取対象者だった豊島が自殺したことにより、公正取引委員会の審査局 第六審査(通称:ダイロク)へ異動となった。
豊島は、長いこと続いてきた悪習である談合に関する証言をして捺印したあと、自ら命を絶った。
豊島の娘・美月からは、
「お父さんはなぜ死んだの?」
と涙ながらに問われるが、白熊は、
「お父さんは悪くない」
と言うことが精一杯だった。
白熊は、元々は父親に憧れて、警察官になりたいと思っていた。
だが、警察学校に通っている途中に、父親が仕事で負傷。
そのことで母親が、警察になることに猛反対をし、警察になることを諦めることに。
警察官になる夢は叶えられなかったが「国民を守り正義を実現するのは同じ」という信念のもと、公取委の審査局で働いている。
しかし、豊島の自殺は、自分の対応によっては防げたのではないかと考えてしまう。
そんな白熊たちのいるダイロクには、東大出身でエリートと評判の高いキャリア組の小勝負勉が赴任することになった。
優秀な人材が、ダイロクに異動になったことを喜ぶメンバーだったが、やってきたのは毒舌で愛想のない若者だった。
そんな中、複数のホテルで行われているウエディング費用のカルテル問題が発覚。
白熊と、小勝負はタッグを組み、カルテルの実態を探ることになる。
『競争の番人 内偵の王子』のあらすじ
公正取引委員会の九州事務所へ転勤した女性審査官・白熊楓。
気合いも十分に赴任した白熊だったが、想いとは裏腹に仕事はうまくいかない。
呉服業界の内偵を進めるも、行けども行けども、一向に話を聞いてもらえず、仕事が進まない。
担当している呉服店には、
「調整に戻らなければ殺す」
といった脅迫状も届いていた。
危険であることを伝えても、店主は白熊に応じようとしない。
同じ事務所の上司も同僚も、白熊のことを本局から来た人間、として冷たく扱う。
一方で、九州事務所には、内偵の王子と呼ばれるエース・常盤がいた。
お坊ちゃん風の常盤は、白熊とコンビを組んでいるのに、約束の時間には現れず、いつも勝手な行動ばかり。
それなのに、常盤は、いろんなところから情報を集めてきて成果を上げていた。
うまくいかないながらも、懸命に内偵を進める中、呉服を扱ったイベントにおいて、巨大カルテルの可能性が浮上してくる。
白熊がかつて所属していたダイロクのメンバーたちも駆けつけ、巨大カルテル解明に挑む。
公正取引委員会ってなんぞや?
最初にも書きましたが、公正取引委員会って言われてピンときませんよね。
談合とかカルテルなんて言葉から、なにか不正を暴くんだろうなあってくらいは感じても、具体的なところってけっこう謎。
公正取引委員会とは独占禁止法を所管する機関。
談合のように、一部の企業が密かに話し合いを行うことは禁止されています。
たとえば、とある公共事業の入札があったとします。
通常、入札の場合、その工事を発注するのに一番安い価格を提示した企業が落札となるんですね。
こうやって、企業同士で価格を競い合わせることで、適正な価格で工事を発注し、税金の無駄を省くというわけです。
でも、企業が談合を行うと、相手の入札価格がわかって、できるだけ企業に有利な金額で落札することになります。
今回はうちが取るんで、次回はお宅がーみたいな感じで価格を吊り上げるという。
また、複数の企業が結託して、一部の企業を締め出すなんてことも。
まさにそんな話が、『競争の番人』では描かれています。
立場の弱い人たちを救う。
『競争の番人』では、ウエディング業界での不正、『競争の番人 内偵の王子』では、呉服業界に蔓延るカルテルを描いています。
読めばわかるのですが、いずれも、苦しい思いをするのは、立場の弱い人たち。
どの業界でもやはりあるのかもしれませんが、仕事を請ける側の人ってどうしても相手に強く出ることは難しい。
相手の言い分に、「それはちょっと」なんていえば、「じゃあよそと契約するから」なんてことにもなりかねない。
複数の企業が結託しているような場合だと、
「逆らうこと=ここではもう仕事ができない」
と同義だったりするのかもしれません。
じゃあ、どうすればいいのか。
そこで登場するのが公正取引委員会ってわけですね。
警察とは違うので、捜査権だとか、公権力はあまりない。
でも、彼らの存在が、正しい競争を生み出し、そのことが弱い立場の人たちを助けることにも繋がります。
『競争の番人』では、まるで正義の味方のような書きぶりなんですが、一面ではたしかにそうしたところもあるのだと思います。
すべてを救えるわけではない。
正義の味方のような、と書きましたが、それでも公正取引委員会はすべての立場の弱い人たちを救えるわけではない。
あくまでできるのは、適正で公正な競争を取り戻すこと、なんです。
『競争の番人』、『競争の番人 内偵の王子』で出てくる花屋さんや呉服店、呉服を作る立場の人たち。
彼らの仕事を増やしたり、売り上げを伸ばしたりをすることは当然できるわけがなく、できるのは、真っ当に戦っていく土台を築くことだけ。
だから、不正な取り決めの中で生きていたお店だと、公正取引委員会が不正を暴いたために、大口の仕事がごっそりなくなる可能性だってあります。
不正を取り除くことは大切だが、もし摘発したらこの店はどうなるのか。
そんな葛藤も描かれています。
あくまで、それは仕事だと割り切れる人ばかりではきっとないんですよね。
どの仕事だって、良い面と悪い面、大っぴらに喧伝できる部分と見せられない部分があります。
その中でも、仕事に向き合って進むには、その人なりの信念が必要になるのかなって思います。
おわりに
『競争の番人』と『競争の番人 内偵の王子』って、出版日が、2022年5月9日と、2022年8月29日になっています。
わずか三か月の間に2冊出てるんですね。
更に言うなら、『剣持麗子のワンナイト推理』が2022年4月に出ています。
新川帆立さんって、かなり筆が早い人なのかなって印象を持ちます。
『競争の番人』ってけっこう複雑なところもあると思うんですよ。
ご本人が弁護士っていうのもあって、法律には強いのかもしれませんが、下調べってかなり必要になりそうな話でした。
たぶんこれからも、法律ががっつりからむような話を書いてくれるのかなと楽しみにしています。