佐藤青南

消えた犬から事件を探る。社会問題にも言及。佐藤青南『犬を盗む』

犬の散歩をしている人同士であいさつや立ち話をする姿ってよく見ますよね。

犬を飼っている人と、それだけで親近感が生まれたりもします。

彼らだけに見えている世界というのもあるのでしょう。

今回読んだのは、佐藤青南さんの『犬を盗む』です!

佐藤青南さんのYouTubeはいつも見させてもらっているのですが、あまり作品を読んだことがなく。

以前読んだのは、『サイレント・ヴォイス』でした。

『犬を盗む』は、王様のブランチでも紹介されて話題にもなったので、読んでみようと思って手に取りました。

ここでは、『犬を盗む』の感想やあらすじを紹介していきます。

Contents

『犬を盗む』のあらすじ

高級住宅地で一人暮らしの老女が殺害された。

部屋には、犬用のゲートなど、犬を飼っていた痕跡があるのに、その犬がいない。

犬はいったいどこに行ったのか。

刑事たちは被害者の行動を追いながら犬のゆくえも探っていく。

一方、雑誌記者の鶴崎は、コンビニでアルバイトをしていた。

目的は、同じコンビニで働く松本である。

松本は、両親と飼い犬をバッドで殺害した罪で少年刑務所に入っていた過去があった。

鶴崎は、かつてそんな事件を起こした松本が、突然犬を飼い始めたことに驚愕するも、犬のさんぽをさせてほしいと頼み、松本との距離を縮めていく。

犬を飼っている人、独自の視点でおもしろい

『犬を盗む』を読んでいて思うのは、

「犬を飼ったことがある人ならではの視点だ!」

ということです。

私は割とさんぽをするほうなんですね。

すると、犬と一緒にさんぽしている人とかなりの割合で遭遇します。

犬のさんぽをしている人同士で道端で会話したり、公園で集まったり。

犬を飼っている人同士のコミュニティみたいなのが自然と出来上がっています。

そこの中でしかわからないこと、気づかないことって視点がまたいいですね。

あと、飼っている犬を記憶しているのに、飼い主のことはよくわかっていないのとか、なるほどーという感じでした。

「チョコちゃんのママ」

みたいに、犬の名前は憶えていて、その飼い主はよく知らない、と。

これって、保育園とか幼稚園とも似たようなものを感じちゃいます。

社会問題に触れるところも

佐藤青南さんといえばミステリーなわけですが、『犬を盗む』ではいろんな社会問題が盛り込まれています。

犬の多頭飼、犯罪者の出所後の話、SNSの危険などなど。

犬の多頭飼は、ときどきテレビでニュースになることもありますね。

犬を飼うにあたって特に管理をしようとせず、どんどん犬が子どもを作って、気づけば収拾がつかなくなってしまう状態ですね。

近隣からすると、犬への恐怖もあるし、鳴き声はうるさいし、衛生面でもかなり心配です。

『犬を盗む』で出てくる松本は、少年事件の当事者。

その今の生活を、雑誌記者が追うわけですが、これもかなり気になる内容。

刑期を終えた人は、形の上ではそこで罪を償ったことになります。

もし、その後、再犯を起こせばそれは大問題だけど、多くは、事件を起こさず静かに暮らそうとしている。

それを無理矢理表に出そうということって、やっぱりあるなって思うんですよね。

重大事件であればあるほど、世間の目をひくし、雑誌にとっては、それがかっこうのネタになるから。

それが正しいことではないと思っていても。

一方で、たしかに、もし自分の家の近くに、元犯罪者がいるってわかれば嫌な気持ちにもなるんですよね。

刑期を終えたからってその人が二度と犯罪をしない保証はないわけだから。

このあたりの心理って難しい。

変な眼で見てはけないと思う気持ちと、それでも自分の周囲には関わってほしくない気持ちってあるわけで。

おわりに

佐藤青南さんの本は、まだこれで二冊目ですが、印象としては、文章は割と淡々と書かれているんですよね。

余計なというか、大袈裟な描写ってのはあまりなくて、できるだけフラットな文体を意識しているのかな。

それなのにおもしろい。

それはやっぱり、きちんとプロットが練り込まれて、考えられて作られているからなのかなと思います。

最近は、作家さんのデビュー作を読むことが多かったので、そちらは、多少、変なところがあっても、情熱と勢いで押しているところってあるんですよね。

それはそれで好きですが。

そうではなくて、物語としてしっかり成立させているってところでかなり好みかなと思いました。