本屋大賞

仕事とどう向き合うのか。宮下奈都『羊と鋼の森』あらすじと感想。

突然、なにかに心を奪われることは、誰にだって起こりうること。

それは、素敵な異性かもしれないし、スポーツの感動的なシーンかもしれない。

この本の主人公の場合、ピアノの調律だった。

今回読んだのは、宮下奈都さんの『羊と鋼の森』です。

いや、いいですね。

この方の本を読むのは初めてでしたが、きれいな文章と、主人公が悩みながらも成長する姿が私好みでした。

Contents

『羊と鋼の森』のあらすじ

主人公はピアノの調律師を目指す外村。

高校生のときに、調律師の板鳥が行った、学校のグランドピアノの調律を見て心を奪われて、調律師を目指す。

調律師養成の専門学校に行き二年間学び、一応の技術は身に付けた。

でも、調律師を目指す人って、もともとピアノ経験があるような人ばかり。

周囲と自分の実力の差や、自分の技術が足りないことに悩むことも。

外村は、専門学校を卒業後、見事、板鳥の働く会社に勤めることを果たす。

そこには、外村よりもずっと技術も感性も高く、個性的な先輩たち。

先輩たちから仕事のこと、人生のことを学び、調律を依頼する顧客との触れあい、外村は、調律師としての自分を見出していく。

第13回本屋大賞受賞作

以前からタイトルは知っていたんですけど、ほかの本を優先してなかなか手が伸びなかった一冊です。

でも、読んでみたらぶちおもしろい!

もっと早く読めばよかったといつもの後悔ですね。

何を隠そう、『羊と鋼の森』は2016年の第13回本屋大賞受賞作品です!

そりゃおもしろいに決まっていますね。

それ以外にも、

紀伊國屋書店による〈キノベス!2016〉第1位
『王様のブランチ』によるブランチブックアワード2015大賞
第154回直木三十五賞の候補作

と、評価の高い作品です。

そもそも、この本を読もうと思ったのも、

「本屋大賞受賞作を順番に読んでいこう!」

と思い立ったからです。

最近は、自分の好み関係なく、雑多に読んでいたので、間違いなく楽しめるものがほしくなったので。

大賞の名にふさわしい小説でした。

とても表現が美しくて読みやすい

同じ題材、同じストーリーだったとしても、人によって描き方って変わるものです。

宮下奈都さんの小説は初めて読んだのですが、ぱっと思ったのは、

「とても表現が美しい」

ということでした。

ピアノ一つをとってみても、とても自分では思いつかないような文章が並んでいて。

やわらかく繊細な表現に、読んでいて文字に引き込まれていく思いでした。

かといって、難しいのではなくとても読みやすい。

だから多くの人に指示されたのでしょう。

こういう芸術に関わる題材の小説ってたくさんありますが、表現力のある作家さんが書いた小説ってやはり、群を抜いておもしろいと感じます。

恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』を読んだときもそうでしたね。

あちらはピアノのコンクールを舞台とした小説でしたが。

職業人として

主人公はピアノの調律師として、悩みながらも成長していきます。

その過程というのは、私自身の仕事に対する姿勢を考えさせられるものがありました。

なぜその仕事をしたいと思ったのか。

その原点ともいえる記憶を思い起こさせてくれました。

『羊と鋼の森』には、いろんな思いや背景を持って調律師をしている人たちが登場します。

そのどれも一つのあり方で、どれも間違いではない。

私も、社会人として働いていますが、そこにいる人たちは、誰一人としてまったく同じ気持ちで働いているわけではない。

なにが正しいわけでもなく、自分なりの答えを持って日々を送っているのだと思います。

私自身、いまの自分の仕事に対する姿勢に不満はないつもりです。

それでも、仕事を始めた頃は、もっと純粋で情熱を持っていたなと感じます。

十年以上勤めた経験に、少しだけあの頃の情熱を混ぜ合わせて、また一段上の自分として成長していきたいなと。

個人的には、こういった主人公の成長が描かれるような、わかりやすい小説が大好きです。

主人公の成長という点でいえば、小説すばる新人賞を受賞していた『櫓太鼓がきこえる』もよかったですね。

こちらは相撲の呼出しが主人公のものですが、周りの呼出しや、同じ相撲部屋の人に触発されながら自身を高めていく姿は素敵だなと思います。

読むだけでなくて、現実に自分も高めていけるようにならねばです。

明日も仕事、頑張ります。