ふだん読まないジャンルの小説を読むことができるのも、特定の賞の受賞作を選択するときの楽しみです。
今回読んだのは、増島拓哉さんの『闇夜の底で踊れ』です!
第31回小説すばる新人賞受賞作ですね。
主人公は元暴力団の伊達。
この時点でいつものなら手を出さない。
タイトルや表紙も、好きなジャンルとは違うっぽいからスルーしてしまう。
でも読んでみると、意外とおもしろいものです。
著者の増島さんは19歳のときにこれを書いているのでそう考えてみると、おもしろさ倍増です。
Contents
『闇夜の底で踊れ』のあらすじ
主人公は、35歳、無職、パチンコ依存症の伊達。
元暴力団員であったが、当時の貯金を切り崩しながら、日雇いバイトとパチンコで日々を送っていた。
ある日、パチンコで大勝した勢いでソープランドへ。
そこで出会った詩織に恋心を抱き、入れ込むようになる。
しかし、そんな生活も長くは続かず、所持金が底をつき、闇金業者から金を借りることに。
踏み倒すつもりで、逃げる伊達であったが、ついに所在がばれ、襲撃を受けたとき、その窮地を救ったのはかつての兄貴分、関川組の山本だった。
山本から、非合法の仕事を請け負いながら借金を返済しつつ、詩織に一層のめり込んでいく伊達。
そのころ、関川組では組長引退をきっかけにした内紛が抗争へと発展していくのであった。
縁することのない世界
『闇夜の底で踊れ』は、元暴力団員が、パチンコ依存となり、女性にも入れ込み、借金まみれになったところに、かつての兄貴分が現れて……。
といったものだが、こうした世界ってふつうに生きていれば縁することってまずないですね。
それでも、たしかにそうした世界があり、そうした生き方をしている人たちもいるのだと。
著者の増島拓哉さんは、これを書いた当時19歳。
大学生であり、こうした世界にはとうぜん触れたことがないはず。
でも、それを見事に描き切っているところに驚きがあり、力のある作家が現れたと感じます。
自分の19歳のころって想像してみると……。
大学2年生くらいだから、バイトしながら大学に通って、でも授業もあまり集中せずさぼってみたり。
このころ麻雀も覚えてしまったので、徹夜で友人たちとアパートに引きこもって遊び、翌日の授業を寝ちぎる……。
とても親に申し訳ない生活を送っていたなあと反省です。
内容的に私が好むものではないんですが、それでも、一つの物語としてきれいに完成していて、手に取ってみて後悔はないです。
偏見というもの
偏見というものをどう考えるか。
伊達がかつての兄貴分である山本に偏見はあるのかと尋ねたシーンがあります。
山本の答えはいたってシンプル。
「自分の理解できひんモンにいちいち偏見持っていたら、生きていけへんやろ。
みんな違ってみんないい、ならぬ、みんな違ってみんなどうでもいい、やな」
(増島拓哉『闇夜の底で踊れ』P132より)
いささか乱暴なもの言いではありますが、なんかとってもすっきりします。
そうなんですよね、いちいち偏見持っている必要ってないなと思います。
社会人になると偏見ってけっこうあるんですよね。
「ああいう仕事をしている人たちは……」
とか、
「最近の若いもんは……」
とか。
偏見でもレッテル張りでもなんでもいいですけど、そうやって視野を狭めて、偏見になるような発言をする自分に満足してしまうことってよくあります。
年配者が採用されたばかりの若者を理解できないのなんて当たり前。
理解できないものは理解できないものとして接すればいい。
理解したいなら理解する努力をし、別に理解できなくていいなら、どうでもいいものとして放っておけばいい。
そこを下手に、「ああいうやつらは……」なんて考えるからややこしくなる。
そういう割り切りってかなり好みだったりします。
夢を追うことの方が楽?
これも山本の発言。
「夢は、諦めるよりも追っかけてた方がよっぽど楽やろ。
夢を追ってたら、たとえ結果が伴わんでも、自分は夢を追って充実してるんや、っちゅう夢を見てられる。
でも夢を諦めたら、否が応でも現実を見なあかん」
(増島拓哉『闇夜の底で踊れ』P138より)
伊達の回想シーンだったかな。
まだ山本の下で暴力団に所属していて、ある日、路上で漫才をしているコンビに、一万円をあげたときの話。
夢を追う姿って割と美化されるもので、自分自身もまだ結果が伴っていなくても、不思議とそこに満足感や充実感を得てしまう。
でも、それはいいことばかりではない。
よく、
「いつまでも夢を追っているわけにはいかない」
なんて言葉もあるとおり、成功できないのであれば、いつかは現実を直視して、その夢への梯子を下ろさなければならなくなる日が来る。
それはとても苦しいもので、できることなら選択したくないことなんだなと思います。
甘美な夢か、苦しい現実か。
大多数は早々に現実に自分の基盤を置くことになるのかなと。
おわりに
さて、久しぶりにかなり自分の好きなジャンルとは違ったところに手を伸ばしてみました。
でも、それはそれでおもしろく読ませてもらいました。
小説の内容も良かったのですが、それよりも、どんなことを考えながら『闇夜の底で踊れ』を書いたのだろうかなーと想像するのが楽しかったです。
小説すばる新人賞受賞作もこれで読んだのは6冊かな?
10冊まではこのまま読み進めていきたいと思います。