”きらめき”って聞くとどんなものを想像しますか。
私だと、青春って感じもしますし、天気のいい日の海も頭に浮かびます。
単純に、宝石とかが輝いていることもあれば、人の内面が輝いている様かもしれないですね。
今回読んだのは、鯨井あめさんの『きらめきを落としても』です!
『晴れ、時々くらげを呼ぶ』でデビューした鯨井あめさんの三作目にして初の短編集になります。
6つの短編がそれぞれで完結をしていながら、少しずつリンクしているところが読んでいて楽しくなります。
ここでは『きらめきを落としても』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『きらめきを落としても』のあらすじ
〇「ブラックコーヒーを好きになるまで」
〇「上映が始まる」
〇「主人公ではない」
〇「ボーイ・ミーツ・ガール・アゲイン」
〇「燃」
〇「言わなかったこと」
人気が出たものは倦厭し、他人よりも優位に立つことを模索し、自分が好きなものに対しても素直になることができない男性。
憧れだったはずの天文学を学ぶために大学に入学したのに、怠けてずるずると大学院試験の直前まできてしまった僕。
主人公だったら起こりうることも、主人公ではない人からすると、何気ない日常となる。
でも、主人公の影響を受けて日々が少しずつおかしくなっていく男性。
何事にも夢中になれない「不燃物」の僕。
その心が燃え上がるきっかけはいったいどこにあるのだろうか。
少し変わった設定もあるが、いずれも人間の生き方を考えさせられる作品たち。
特に好きだったのは「ボーイ・ミーツ・ガール・アゲイン」
6編のお話の中で特に好きだったのは、「ボーイ・ミーツ・ガール・アゲイン」でした。
これが『きらめきを落としても』の中で一番優しい雰囲気だったからですかね。
コンビニでイヤリングを落とした女性に一目ぼれをした僕。
僕はなにかと巻き込まれる体質を持っていて、道路を渡れずにいるおばあさんに出会ったり、木にボールをひっかけて困っている子どもたちに遭遇したり。
そして、根っからのお人好しでついつい手助けをしてしまいます。
そんな僕のもとに、猫のクロダさんがふらっとあらわれ、その口には、一目ぼれしたときのイヤリングが。
もしかしたらその女性に会えるのではとクロダさんのあとを追いかけていくって話です。
話としてはなにか驚愕な事実!みたいなものとか、どんでん返しとかがあるわけではないんですが、読んでいてほんわかした気持ちになる一編でした。
この主人公がまたとてもお人好しで好感が持てるところもよかったですね。
好きな人を探そうとクロダさんを追いかけているのに、クロダさんを見失うことを覚悟で、他人の手助けをする。
そういう姿ってちょっとかっこいい。
一時の感情に身を任せるより、自分らしさを貫いた方がいい。
(鯨井あめ『きらめきを落としても』より)
本来の自分の在り方を曲げてまで、一時的な感情のままに行動することを良しとしない。
人間ってわりと感情に振り回される生き物だと思うんですよ。
こういう風に生きたいとか、こうなってやろうとか、そう決意していても、何かの拍子にあっさりとそれが覆ってしまう。
だから余計にこうした姿って憧れがあります。
燃えるタイミングも燃え方も人それぞれ
5つ目に入っている「燃」もすごくよかった。
自分のことを不燃物だという静原。
天才ヴァイオリニストとして期待を受けていたが、右手を骨折してからヴァイオリンを止めてしまいます。
静原は、自分は燃えたことがなく、ヴァイオリンもあったからしていただけだと。
周囲のように情熱をもって何かを行うことができない。
それってけっこう辛いことですよね。
他人との熱の差ってどこにいても大なり小なりあるもので、学生時代の部活・サークルだと特に顕著になりますね。
仕事となると、まあ熱に差があろうとやることやっていればそれでいいんですけど、若い時って周囲と比較してしまうところもあって、
「なんで自分はこうなのかな」
って感じる人もいるのではないかなと。
でも、まったく燃えることがない人っていないんだろうなとは思います。
まだその人が燃えるために必要な経験やきっかけがなかったというだけで。
誰しもが心の奥底にはしっかりと熱いものを持っていて、それが動き出す日を待っているのだと。
そうしたことを再確認させてくれたのが「燃」でした。
すごく好きな感じの終わり方。
基本的に私はハッピーエンドが好きなので、優しい気持ちで終われる物語がいいですね。
書けないのか書かないのか、言わないのか言えないのか
最後の、「言わなかったこと」もまたいいですね。
言えなかったこと、言わなかったこと。
書けないことと書かないこと。
なんですかね、「できない」のと「しない」は、似ているようで全然別物。
でも、「しなかった」ことを「あれはできなかった」と考える人って多い。
もしくは、最初から「できない」と言い張ってみたり。
身近にもそういう人がちらほらいるから、こうしたテーマってけっこう気にかかります。
別に、自分で選んで「しない」選択をするのならいいと思うんですよね。
それを最初から、「あれはできない」って考えるのは好きではなくて。
何か新しいことがあったとして、「できない」でやらないよりも、
「挑戦できなくはないけど、そこまでやる気もないし、失敗したら嫌だからしない」
って考えの方が好きなんですよ。
どっちみちやらないことに変わりなくても、心構えの問題というか、自分に対する認識というか。
ちょっと小説とはずれてしまいますね。
「言えなかったこと」と「言わなかったこと」。
これも深いなーと感じます。
あえて言わなかったことだけど、心情的には言えなかったでもおかしくはない。
でも、きっと言えたほうがよかったんでしょうね。
そうした後悔って私にもいっぱいあるし、いまでも、言おうと思えば言えることなのに、なにかと理由をつけて、言えないにしてしまっていることってある。
自分に突きつけられた命題みたいで。
おわりに
ということで、鯨井あめさんの三作目でした。
このブログを書いている現時点では、これで出版しているのは全部なのかな。
一年に一冊ずつペースのようなので、今年もまた新しいのが出るのかなと期待しています。