〈古典部〉シリーズ

米澤穂信『氷菓』のあらすじ「わたし、気になります」が耳に残る〈古典部〉シリーズ第1巻!

「わたし、気になります!」

というフレーズが耳に残ります。

特に目立った言葉ではないし、強烈なインパクトがあるものでもない。

でもそれがここまで残るのは、そこまでの文章力と展開のなせる技でしょうか。

 

今回紹介するのは、米澤穂信さんの『氷菓』です。

 

米澤穂信さんは、2001年に、第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門にこの『氷菓』を応募し、奨励賞を受賞してデビューすることになります。

現時点で6冊が出版されていますが、主人公たちが所属する古典部が舞台となることから、<古典部>シリーズと呼ばれています。

ここではこの第1作目『氷菓』のあらすじや感想を書いていきます。

ネタバレもありますので注意してください。

Contents

『氷菓』のあらすじ

ベナレスからの手紙

折木奉太郎のところへベナレスに旅行中の姉から手紙が届きます。

いわく、古典部に入りなさい!と。

姉が入部していた古典部が部員がおらず廃部の危機。

それはOBとしても見逃せないし、姉の青春の場である古典部を守るように。

そんな一方的な手紙で物語は始まります。

伝統ある古典部の再生

神山高校に入学した折木奉太郎。

「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に。」

をモットーに、何事にも積極的には関わろうとしない「省エネ主義」。

しかし、姉のすすめ(という名の脅迫)で廃部寸前の古典部を存続させるために入部することに。

しぶしぶ入部を決めた奉太郎だが、ここに誤算があった。

 

カギを借りて古典部の部室である地学講義室に行くと、そこにはすでに一人の女生徒が。

一身上の都合で古典部に入部する千反田えるという存在がいたのです。

面白半分でのぞきにきた福部里志とともに自己紹介を終えた奉太郎が帰ろうとしたとき、千反田はあることに気づきます。

それは、千反田が講義室に入ってから奉太郎が来るまでの3分ほどの間にカギがかけられて閉じ込められていたということ。

 

早く帰りたい奉太郎だったが、

「わたし、気になります」

と好奇心に瞳を輝かせた千反田に押し切られてその謎を解くことに。

名誉ある古典部の活動

出会いから1か月が過ぎようとしたころ、千反田から神山高校文化祭(通称カンヤ祭)で古典部の文集を出すことを提案されます。

「必要のない活動、それに費やされる労力を浪費というのだ」

と文集づくりを拒否したい奉太郎。

しかし、(古典部の予算の)名目と伝統に対抗する術をもたない奉太郎は、文集作成の参考にするため、バックナンバーを探しに図書室へ。

図書室に行くと、里志と図書委員の伊原摩耶花から「愛なき愛読書」の話を聞きます。

いわく、5週連続で同じ本が金曜日の放課後に返却されている。

神山高校の貸出期間は2週間だからもっと長く借りられるはず。とのこと。

話に興味を示した千反田により、奉太郎がまたもこの謎を解き明かします。

事情ある古典部の末裔

ある日曜日に千反田に学校以外の場所で会いたいと呼び出された奉太郎。

奉太郎は、喫茶店「パイナップルサンド」で千反田から古典部に入った「一身上の都合」について話を聞きます。

それは、千反田の伯父・関谷純にまつわる話と奉太郎への頼みを告げられます。

 

関谷純は、古典部のOBにあたり、7年前からインドで行方不明。

なにを質問しても答えてくれる伯父に千反田も幼少期から懐いていた。

あるとき、「コテンブ」に入っていたという伯父に、「コテンブ」にまつわるなにかを尋ねたところ、伯父はめずらしく答えることを嫌がった。

それでも駄々をこねる千反田に伯父は答えてくれたが、その答えを聞いたとき千反田は思わず泣いてしまった。

恐ろしかったのか、悲しかったのかわからないが伯父は泣く千反田をあやすこともしてくれなかった。

このとき、千反田がいったいなにを聞いたのかを思い出させてほしいという頼みでした。

行方不明から7年。

法律上の死亡が確定する前に、伯父との思い出にけりをつけたい千反田に奉太郎は協力することを約束します。

由緒ある古典部の封印

図書室で文集のバックナンバーを見つけられなかった古典部メンバー。

そんなとき、奉太郎のところに姉からの手紙が。

いわく、「古典部の文集は部室の薬品金庫の中にある」と。

しかし、現在の部室である地学講義室には発見できなかったため、2年前まで部室であった生物講義室へと向かうことになります。

生物講義室は、「壁新聞部」の部室となっており、訪れるとカギがかかっています。

しばらくすると、部員が出てきますが、文集は見たことがないと、古典部メンバーを早く追い出したがります。

その態度や部屋の様子に違和感を覚えた奉太郎。

「壁新聞部」の部員が、隠そうとしていた秘密に気づいてしまいます。

栄光ある古典部の昔日

無事にバックナンバーを見つけた古典部メンバー。

文集『氷菓』の第2号に関谷純の名前も載っており、千反田の思い出の解決に近づいたかに思われたが、創刊号だけが見つからない。

千反田の思い出が33年前に古典部で起きた事件に関係しているかもしれないことから、古典部メンバーで33年前の事件を追うことになります。

4人がそれぞれ集めてきた資料から、古典部としての仮説を打ち立てます。

歴史ある古典部の真実

33年前の事件を解き明かしたと思われたが、奉太郎のところに姉から国際電話が入ります。

奉太郎が、古典部に入り文集を作っていること、関谷純の事件について調べたことを伝えると、姉は、

「今でも伝わってるんだ。じゃあ、まだカンヤ祭は禁句なの?」

「あれも悲劇よね、嫌だったわ」

姉はそれ以上、事件について教えてはくれなかったが、自分たちがなにか思い違いをしていることに奉太郎はきづきます。

奉太郎は自分たちの仮説になにが足りなかったのか検討し、翌日古典部メンバーを集めます。

仮説についての補足をする、と。

奉太郎は古典部メンバーとともに、仮説の最後のピースを埋めるために当時を知る証言者のところへ向かいます。

そこで、33年前の事件の真実と、文集『氷菓』に込められた想いを知ることになります。

未来ある古典部の日々、サラエヴォへの手紙

最後の2章が『氷菓』のエピローグにあたる部分です。

ページ数的にも二つ合わせて8ページ。

『氷菓』全体の余韻に浸りながら最後の8ページを楽しみましょう。

【氷菓】という文集の意味とは?

ここからもネタバレとなります。

これから『氷菓』を読む人はここまでにしましょう。

 

ここでは紛らわしいので小説の方を『氷菓』、文集の方を【氷菓】と記載します。

さて、古典部の文集【氷菓】。

本書でもなぜこのタイトルなのかというのが一つの謎として提起されます。

『氷菓』の中で大きく取り上げられるのが、千反田の伯父・関谷純に関わる33年前の事件。

「静かな闘士」であり、「優しい英雄」である関谷純にいったい何が起こったのか。

『栄光ある古典部の昔日』では、古典部の仮説として、

〇事件が起きたのは33年前の6月

〇事件は教師側が文化祭の日程を縮める方針を打ち出したことによる

〇全学が怒りに燃え立ち、関谷純を中心とした生徒による反抗が巻き起こった

〇その結果文化祭は例年通りの日程で行うことになった

〇熱が冷めたであろう12月ころに責任を取らせる形で関谷純は退学となった

といった内容が考えられました。

当時の時代背景や集めた資料にも矛盾はない。

この仮説を軸に文集を作ることにその日は決まります。

 

しかし、その仮説はなにかが足りなかったことに気がつきます。

翌日、奉太郎は古典部のメンバーとともに当時を知る教師のもとにおもむき質問をします。

「俺が訊きたいのは一つです。関谷純は、望んで全生徒の盾になったんですか」

 

教師は33年前のことを教えてくれます。

〇当時、実質的なリーダーは別にいたこと

〇関谷純は貧乏くじを引かされ、名目上のリーダーに祭り上げられたこと

〇騒動の中で、格技場が家事となり半壊してしまったこと

〇文化祭が終わったあと、騒動の責任を名目上のリーダーであった関谷純が負わされ退学になったこと

教師は最後にいいます。

「関谷さんは、最後まで穏やかだったわ。でも、自ら進んで盾になったのかって訊いたわね」

「もう、答えはわかったでしょう」

 

【氷菓】の表紙は、兎と犬がお互いにかみ合い相打ちになっている絵。

その二匹を多くの兎が遠巻きに眺めています。

犬は学校側、兎は生徒、犬を道連れにした兎が関谷純。

そこに当時の様子が描かれています。

 

【氷菓】のタイトルは関谷純が無理をとおして決めた名前。

誰もそのタイトルの理由がわからない中、奉太郎だけが気づき、これまで誰にも関谷純の想いが受け止められていなかったことに腹を立てます。

「わからないのか?いまの話をどう聞いていたんだ。はっきりしてるだろうが、意味なんか。下らない駄洒落だ」

氷菓⇒アイスクリーム

アイスクリーム⇒Icecream

Icecream⇒I scream

となり、関谷純の当時の苦しみや無念の気持ちを込めたものでした。

千反田えるが伯父からいわれた言葉

【氷菓】のタイトルの意味を知ると同時に千反田も伯父とのやりとりを思い出します。

伯父とのやりとりを千反田は次のように述懐します。

「思い出しました。わたしは伯父に、『ひょうか』とはなんのことかと訊いたんです。そしたら伯父はわたしに、そうです、強くなれと言ったんです。もしわたしが弱かったら、悲鳴も上げられなくなる日がくるって。そうなったらわたしは生きたまま……」

「折木さん、思い出しました。わたしは、生きたまま死ぬのが怖くて泣いたんです。……よかった、これでちゃんと伯父を送れます……」

(米澤穂信『氷菓』(歴史ある古典部の真実)より)

「強くなれ」と幼い姪にこの言葉をつげた関谷純はどんな気持ちだったのでしょうか。

一般社会に生きる私たちにもこの関谷純の言葉は当てはまりますね。

弱かったら悲鳴を上げることすらできない……。

そんな状況におちいる人は世の中にたくさんいます。

本当ならそんなときに周りで支えてくれたり、味方になってくれたりする人がいればいいのだとは思います。

でもそうでないことも大いに考えられます。

私自身も関谷純のような経験はなくとも、あのときもっと強かったらと思い返すことがやはりあります。

『氷菓』はアニメや実写映画にも!

THE学園もの!と言わんばかりのさわやかなオープニング。

折木奉太郎を始めとする主要メンバーのビジュアルもイメージにぴったり。

アニメ版『氷菓』のクオリティの高さを感じさせられました。

 

米澤穂信さんの<古典部>シリーズは、2012年に京都アニメーションが手掛けてアニメとなりました。

テレビ放送で22話とOVA1話の全23話となっています。

内容は原作に沿っていますが、時代設定が原作とは違います。

原作⇒2000年

アニメ⇒2012年です。

原作出た当時とでは高校生の生活も大きく変化していますもんね。

だいたい小説が原作のアニメは微妙なことが多いですがこれは大成功でした!

2017年には映画化

折木奉太郎を山崎賢人さん。

千反田えるを広瀬アリスさんが演じています。

こちらは……コメントは差し控えたいと思います。

また、漫画にもなっていますが、こちらも個人的には少々物足りない。

『氷菓』って空間とか行間とかそういった間のようなものがすごくいい作品だと思います。

小説だと描写が巧みで感じ取れますし、アニメなどの映像でもうまくあらわされています。

でも漫画だとそこが少し難しい。

描写のいい原作だからこそ、一般的な漫画に比べてコマに描かれている量が少なく感じます。

絵は好きなのですが、小説や映像で感じられる良さがやや落ちるかなぁと。

おわりに

米澤穂信さんの〈古典部〉シリーズの『氷菓』を紹介してきました。

文章量としてはそこまで長くないので、ふだん本を読まない人、読書が少し苦手だなって人にもおすすめな作品になります。

まだ読んだことがない人はぜひ一読を。

きっと『氷菓』を読めば次の『愚者のエンドロール』も読みたくなり、そのまま〈古典部〉シリーズ大人買いの道を歩むことでしょう。