人の悪意というものは説明がつかないものが多い。
「なんか気に入らない」
「そりが合わない」
そうした些細な感情からときには大きな行動へと移ってしまう。
今回紹介するのは、東野圭吾さんの、
『悪意』です!
東野圭吾さんの<加賀恭一郎>シリーズの4作目になります。
単行本として、双葉社から1996年に刊行され、講談社文庫で2001年に文庫化されています。
文庫版の解説を、作家の桐野夏生さんが書いています。
『東京島』や『グロテスク』などの有名な作品を書かれている作家さんですね。
この『悪意』に寄せられた解説がまた考えさせられる内容なので、本編と合わせて読んでみてください。
Contents
『悪意』のあらすじ
人気作家の日高邦彦が自宅の仕事場で殺害された。
本人の持ち物であった文鎮で頭を殴打され、電話コードで首を絞められていた。
その日に日高を訪れていた幼馴染の児童作家の野々口修。
野々口は、事件当日に日高を訪れた際の手記を残しており、加賀はその手記に興味を持つ。
手記の中に含まれる虚偽や、聞き込み調査により、警察は野々口を犯人であることにたどり着く。
野々口は、犯行を認めており、動機については些細なことであると言って口をつぐむ。
しかし犯人は判明したものの、どうしても動機が見つからない。
野々口は、加賀が教員をしていたときの先輩であった。
奇妙な縁で再開をした二人。
加賀は真相を突き止めるために行動を開始する。
といった内容になります。
『悪意』は、野々口修の書いた手記と、加賀恭一郎の記録という形で進んでいきます。
それぞれ、
事件の章
疑惑の章
解決の章
追及の章
告白の章
過去の章
真実の章
とあり、3章で事件は解決したかのように見えますが、残りまだ半分以上話が残っているんですね。
犯人はすでに野々口だとわかっている。
では、なぜ野々口は日高を殺したのか。
真相はいったいどこにあるのかと、加賀がいつもの切れ味を見せます。
人の悪意というものについて
『悪意』を読んでいて、単純に人間の心理をつく描写や展開に感心させられる一方、人間の悪意というものの怖さについても感じさせられます。
『悪意』の中では、中学生のいじめの話が出てきます。
小説の中でのいじめは、かなりひどい内容です。
殴ったりけったりは当たり前のこと、塩酸をかけたり、金品を巻き上げたり。
主導していた生徒は、自分たちでやるだけではなく、周りで見ていたほかの生徒に無理やりいじめをさせていたことも描かれています。
「やらなければ同じように自分がいじめられる」
そうして、それまで見ていた生徒も加担し、”共犯者”として、罪悪感を植え付けられる。
『悪意』の中ではいじめの理由が、
「気に入らなかったから」
というもの。
これって現実でも同じようなことがたくさんあるような気がします。
中学生のいじめに限らず、大学生になっても社会人になっても、こうした他人に対する、
「なんか気に入らない」
「理由はないけど見ていていらいらする」
といった感情はあるように感じます。
そうした”悪意”が、心の奥底で熟成されて、次第に妬み嫉みというものになったり、それが具体的な行動に現れたりしていきます。
相手に落ち度があるとか、何かしてしまったとかではないんですね。
悪意は本当に理解できずに生み出され人を蝕んでいくところに怖さがあります。
人は信じたいものを信じるということ
東野圭吾さんの『悪意』の中では、
「人は自分が信じたいものを信じる」
ということを感じさせらせる場面が多々出てきます。
私もきっとそうなのだと思います。
例えば職場であまりふだんから苦手だと思っている人がいると、その人に対する悪いうわさはすんなりと受け止めるのに、いいうわさは、
「それって本当なのかな」
と感じることがあります。
結局、真実がどうではなく、自分にとって本当であってほしいことを選んでいるのかなと思いながら『悪意』を読んでいました。
フラットな視点って大事だなと感じさせられます。
人の悪意を理解しようとするのは不可能
悪意をもって行動する人。
なぜこの人はこういうことをするのだろうか……。
そう考えてみても答えは出ません。
かつて私の職場にも他人への嫌がらせを繰り返す人がいました。
備品を盗ったり壊したりして周囲が困っている中、平然とした姿でその場にいます。
その人がやったという決定的な証拠がなかったため、どうすることもできませんでしたが、状況的にその人しか犯人がいない。
周りがそうした状況に右往左往しているときほど機嫌がよくなっていました。
ふだん生活していると、当然嫌なこともありますし、ストレス発散したくなります。
とはいえ、他人に迷惑をかけたいとはふつうは思わない。
理解しようとしても、根本的なずれがその人との間にはあると感じました。
できるだけ被害を受けないようにその人はみんなが距離をとるのですが、そうすると今度は、
「自分だけがハブられている」
と被害的にとらえ、また別の嫌がらせを繰り返していました。
最終的には、決定的な場面を見られ、別の職場に転勤することになりましたが、最後までその人の思考は理解不能なままでしたし、理解したいとも思えませんでした。
終わりに
これで、東野圭吾さんの<加賀恭一郎>シリーズも4作目まできました。
やはり加賀が刑事としての実績をあげているので、『卒業』や『眠りの森』のときよりも、加賀の切れ味が上がってきています。
『眠りの森』でも刑事でしたが、まだ少し頼りないところもありましたよね。
さて次は、『私が彼を殺した』ですね。
『どちらかが彼女を殺した』と同じく、最後まで犯人を教えてくれない作品です。
前回読んだときも犯人がわからなかったので、次こそは自力で判明させたいと思います!