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あなたは何を守りますか?警備員の実態がわかる。浅倉宏景『サクラの守る街』

工事現場や現金輸送車、要人警護。

一口に警備員といっても、多種多様な仕事があります。

でも、言われないと、どれも同じ警備員だとは思えないものですね。

今回読んだのは、浅倉宏景さんの『サクラの守る街』です!

本作は、警備会社の社員、つまり警備員が主人公となる小説です。

意外と知らない警備員の現状やリアルが描かれていて、読み終わると、警備員への見え方が変わっています。

ここでは、『サクラの守る街』のあらすじや感想を紹介していきます。

Contents

『サクラの守る街』のあらすじ

サクラ警備保障株式会社では、6年前に、社員による3億円盗難事件が起きた。

当然、会社の信用は失墜。

佐久良社長は経営立て直しの中過労で亡くなってしまう。

長男である佐久良光輝がそのあとを継いだ。

弟の基輝も一般企業に勤めていたが、退職し、人事部長として会社の再建に尽力する。

しかし、先代である父親の意思を守ろうとする基輝と、経営方針を変換し、警察との関係を強める社長となった光輝は、ことあるごとに対立していた。

基輝は人事部長として働きながら考える。

父は何を守ろうとしていたのだろうか。

そして、俺は何を守ればいいのだろうか。

答えの出せない基輝は、人事の面接をすると最後に「あなたは何をまもりますか?」と尋ねるようになった。

過去、保護観察処分を受けながらも父のコネを使って警備員となった男は、「人間としてのプライド」と言った。

交通誘導をしている高齢男性は、「最低限の生活」。

万引きGメンだったときの失敗がトラウマとなっている女性は、「それはもちろん正義」だと。

戦死した画家の絵にとらわれている小説家は、「守りたいものなんて、とうになくしました」と言う。

4人の日々を見つめ、自分を顧み、基輝は自分の答えを導き出していく。

警備員にはこんなに種類があった!

『サクラの守る街』では、警備員には1号から4号まで種類があることが説明されます。

連作短編の形を取っているのですが、それぞれの章が、1号から4号までの警備員の話なんですね。

というか、そもそも、警備の仕事にそんなに種類があるって知らなかった。

さて、警備の仕事は警備業法という法律で分類されているようです。

1号警備業務:官公庁やホテルなどの施設警備

2号警備業務:交通誘導やイベントなどの警備

3号警備業務:貴重品や核燃料物質などの危険物の運搬の警備

4号警備業務:対象者の身辺を警護

簡単に紹介していくと以下のようになります。

1号警備業務

1号警備業務は施設での警備のことをいいます。

施設ということで、デパートなどの建物や、美術館、博物館で巡回している警備員がこの1号にあたります。

『サクラの守る街』では、元小説家の男性が1号警備業務として、美術館に勤めていました。

一定のルートで施設の中を巡回したり、美術館なので、作品に近づきすぎている人をうまく誘導したりと割と忙しそう。

なにか問題が起きる前に対処しなくてはいけないので、お客さんにも柔らかく穏便に接しないといけない。

ちょっとそうしたスキルは必要そうな仕事ですね。

2号警備業務

2号警備業務は、交通誘導警備業務と雑踏警備業務の2つに分類されます。

交通誘導業務は言葉の通り。

駐車場や工事現場などで、人と車の流れを誘導し交通整理をするのが仕事になります。

私が警備員って言われて、ぱっと思いつくのはこの仕事をしている人たちですね。

ヘルメットをかぶり、オレンジ色や蛍光黄色の目立つ格好をして立っている人たちがいます。

雑踏警備業務は、人が多く集まるイベントの時に会場の混乱や事故が起こらないようにする業務です。

大きなイベントもあれば、夏になれば花火大会もあるし、あの混雑ぶりを想像すると、大変さが理解できると思います。

警備員としての仕事の種類も量も多いのがこの2号警備のようです。

『サクラの守る街』では、70歳を超えた年配の方が主人公で交通警備をしている姿が描かれています。

夏の炎天下の中、警備服で汗だくになるのって、自分たちでもきついのに、年配の方だと体調が心配になるところです。

3号警備業務

3号警備業務は貴重品輸送業務と核燃料物質等危険物運搬警備業務の2つに分けられており、物品を警備の対象にするのが特徴です。

『サクラの守る街』では、いろんな店舗の売り上げを現金輸送車で回って集めて、振込とかの業務まで会社のほうで行うというものでした。

現金輸送車だからこそ、狙われる危険もある。

だから、ベテランの社員は、この章の主人公だった男性に、自分が現金を運んでいることは、友人であれ誰であれ話してはならないって注意します。

それくらい、危険な仕事でもあるってことですね。

4号警備業務

4号警備業務は身辺警護。

ボディガードといえばイメージしやすいですね。

通常、ボディガードというと、政治家やお金持ちが対象で、一般市民は対象外な感じもします。

『サクラの守る街』では、女性専用のボディガードを立ち上げていて、もちろん警備員も女性ばかり。

元警察の女性を中心に、ストーカー被害に合う女性などを守るために奮闘しています。

この4号警備業務って、日常生活を送りながら突発的なことに対処しないといけないから、かなり臨機応変に動けないといけなさそうですね。

実際に、狙われる可能性がある人を守っているわけだから、当然、危険もついて回る。

それ相応の覚悟が必要になります。

警備員の高齢化問題

『サクラの守る街』を読んでいてかなり気になったのが、警備員の高齢化問題。

高齢化問題ってこんなところにまで広がっていたんですね。

本書では、75歳くらいだったかな、元教師の男性が定年退職後に警備員となり、少しずつ体が動かなくなる中、頑張る姿を描いています。

60歳の警備員はまだ若い部類に入るってのが衝撃です。

でも、たしかに工事現場で誘導してくれる警備員さんとか見ると、年配の方が増えているような気もしますね。

警備員ってけっこう危険の伴う仕事です。

ボディガードのような4号警備をさすがに高齢者はしないと思いますが、工事現場だって、判断を誤れば事故が発生しますし、夏場はかなりの炎天下の中に長時間立たないといけない。

過酷な現場なんだろうなと想像できます。

警備員に限らず、私の職場も、本来定年退職する人たちが、そのまま継続雇用になるケースが増えていて、全体的に平均年齢がぐっと上がってきているなと実感しています。

私の父も、70歳近くなりますが、介護施設で働いていますもんね。

自分の守りたいものとは

『サクラの守る街』では、なにも守るのかという視点が何度も描かれています。

守りたいものって人によって千差万別。

そこにいたった経緯も理由も人によって違いますね。

会社を継いだ兄も、そのやり方に反発を覚える弟も、考え方は違えども、大事にしているものは近いものがあったりもします。

自分だったらなにかな。

若いころは、自分自身の立場とか、評価とかプライドなんてものも大事にしていたような気もします。

年を重ねるごとに、家族ができたのもありますが、いまは家族とか周りの幸せとかになるのかなって思います。

おわりに

『サクラの守る街』は、意外と知らない警備員の実態がわかってかなりおもしろかったです。

何気なく見ている警備員ですが、そりゃいろいろと葛藤も苦労もありますよね。

読んでみると、いつも目にしている警備員さんへの見方がとても変わります。

守りたいものというのを考えるきっかけにもなり、なかなかに考えさせられました。