小説

湊かなえさんの『望郷』から学ぶ

地元を離れたのが大学に入学したとき。

一度戻ったこともありますが、就職でまた地元を離れて10年以上がたちます。

でも、そこまでふるさとを意識して考えたことはなかったように思います。

 

今回紹介するのは、

湊かなえさんの『望郷』です!

 

”望郷”というタイトルを見て、

「この本はふるさとを懐かしむ内容なのかな」

と想像をしていました。

 

半分正解、半分不正解といったところでしょうか。

『望郷』は、6つの短編から構成されています。

一つ一つにつながりはないですが、どれも”白綱島”に縁のある人に関わる話です。

 

読みながら、自分にとっての”ふるさと”とは何かと考えさせられました。

 

Contents

『望郷』のあらすじ

『望郷』の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ、白綱島。

モデルとなったのは、湊かなえさんのふるさとでもある因島だそうです。

 

この白綱島は、元々、日本でただ一つ島でありながら市を名乗っていました。

しかし、地方自治体の合併の流れで、本土の市に吸収されることになります。

 

白綱島が合併される前後のエピソードを交えながら、6つの物語が紡ぎだされています。

 

みかんの花
海の星
夢の国
雪の糸
石の十字架
光の航路

の6編になります。

どれにも当たり前ですが、白綱島に関係のある人たちが出てきます。

昔から白綱島で暮らす人々。

島を飛び出して本土で生きていた人。

家庭の事情で島に引っ越してきた人。

 

読んでいると、単純に島にちなんだエピソードではなく、家族に対する想いをベースにした作品が多いように感じました。

”望郷”という言葉も、ふるさとをというよりも、そこに住む人たちを思い出しますよね。

 

島をずっと飛び出したかった人もいれば、その島を出て生きていく術をしらない人もいます。

島を出たけれど、島での関係に縛られている人もいます。

そうした一つ一つを紐解いていく物語に魅了されます。

『望郷』を読んで感じたこと

6つの物語それぞれに違ったメッセージがあり、様々なことを考えさせられました。

その中から思ったことをいくつか紹介します。

人はどの立場かで感じるものが変わる

これは、最初の「みかんの花」を読んで思ったことです。

 

白綱島が、本土の市に吸収合併をされることが決まり、その式典のときのことです。

広い会場には、様々な来賓が招かれて、挨拶をしたり、出し物がしたりしています。

最前列には、役職などを持った重要な来賓の人たち。

中列に、島を出て本土で働いたり過ごしたりしている人たち。

後列に、現在島で生活をしている人たちが座っています。

 

島出身で、東京で暮らしている小説家が、島を思って書いた手紙を読んでいる間、同様に、島を出て暮らしている中列の人たちは、涙ぐみながら聞いています。

一方で後列に座る、現在島に住んでいる人たちからは、

「そんなに島を思うならここに住んで税金を払えばいいのに」

といった冷めた感想が出ていました。

 

逆に、島に住む人たちが、「みかんの花」を合唱すると、後列の人たちは涙ぐみ、中列の人たちは白けた様子でそれを見ていました。

 

自分と近しい人間の言ったことだとすんなり受け止められることってよくありますよね。

似たようなことをする人がいても、仲のいい人だと肯定的に見えて、仲の悪い人だと同じようには感じられない。

そこにあるのは、仲間意識というべきか、帰属意識というべきか。

 

私自身にもそういった部分はありますが、特に意識してなかったなと感じます。

本当であればフラットな視点でそういうものを見ることができるのが一番なんでしょうね。

思いを込めても伝わらないこともあること

これは、「石の十字架」を読んでいて感じたことです。

「石の十字架」の中でこんなセリフがありました。

 

「思いを込めてはなった言葉が、受け取る人の気持ちで、ナイフになったり、ならなかったりするのなら何にも言わないのが一番いいってこと?」

(湊かなえ『望郷』石の十字架より)

 

どんなに相手のことを思って言った言葉だったとしてもそれが伝わるとは限りません。

場合によっては、その言葉で相手を傷つけることになってしまったり、誤解を与えてしまったり。

だとしたら何も言わない方がいいのか。

そんなことはありませんよね。

相手を思う気持ち自体は悪いことではないのだから、それがきちんとした形で伝わるように自分が努力をすればいい。

とはいえ、うまくいかないことも現実して知っておく必要があるのだと思います。

 

自分にとっての”ふるさと”とは

物語では、”望郷”の対象となるのは白綱島でした。

ただ、6つの物語に出てくる人物全員がこの島出身というわけではありません。

後から島に縁をした人も出てきます。

 

私にとって、”望郷”の気持ちを持つ場所はどこだろうと考えました。

実家のある地元は、あまりそういう印象のある場所ではありません。

私にとっては、大学の4年間を過ごした八王子の地なのだと思います。

 

もちろん生まれ育った場所がそうだという人もいます。

でも私には、一番必死に過ごして、今の自分を形作ったあの場所なのかなと感じました。

 

そう思うと、単純な場所とか土地ではなく、そこでどう過ごしたか、どんな人たちと出会ったのかが大切なのでしょうか。

昔を振り返るときに思い浮かぶのはやはり仲の良かった人やお世話になった人です。

そう考えると、どの地でも自分にとっての”望郷”の地となりうるのかなと思いました。

終わりに

湊かなえさんの作品は、これまで読んだ本だとあまり明るい話は少ない気がします。

でもとても面白い。

人の毒の部分というのか、暗い部分を描き出すのがとても上手だからそう感じるのだと思います。

そういう話であればあるほど、自分自身の内面と向き合うことができます。

多くの作品が実写化されて知っている人も多いと思いますが、原作にしかない味わいがあるので、ぜひ気になる人は、手に取ってもらえたらと思います。