本を知る

なぜ書籍や雑誌は定価で販売?本の再販制度とは?

書籍や雑誌は全国どこでも同じ値段で買うことができます。

でも、スーパーで買い物をするときも、電気屋さんで家電を探すときも、同じものを買っても値段って違いますよね。

なぜ本は定価で販売されているのか。

それは、本には再販制度というものがあるからです。

ここでは、本の再販制度とはどういったものか、その必要性や法的根拠などを紹介していきます。

再販制度とはどういった制度か?

再販制度とは、再販売価格維持制度の略称です。

そのまま読み取ると、再販売するときの価格は一定に維持するようにって感じですかね。

定価販売制度ともいいます。

「書籍や雑誌の新刊本を販売するときは必ず定価で販売しなくてはいけない」

という制度になります。

中古本は別で、あくまで新刊本、新品の本が対象ですね。

この再販制度があるから、私たち消費者は、書籍や雑誌は全国どこでも同じ値段で購入することができます。

値段を決めるのは、出版社(メーカー)です。

出版社が小売希望価格(定価)を決めて、それを書店がその定価で販売するという流れになります。

どうして再販制度があるのか

ではどうして再販制度なんてものがあるのでしょうか。

服や家電、食料品といったほかの物にも定価はありますが、実際にはそれぞれの販売店で値段が決められているので、購入価格は場所によって違いますよね。

特に家電なんて、メーカーが出している希望小売価格よりもかなり低い金額で店頭に並んでいます。

ドン・キホーテなんかだと、定価の80%オフなんて表示を目にしてびっくりします。

「だったら本もそうすることで安くなるのでは……」

と思うのですが、そう簡単なことではないようです。

そもそも書籍や雑誌という出版物はほかの一般商品とは著しく異なる特性を持ちます。

〇個々の出版物がほかの出版物にとってかわることができない

〇毎年、70000点ほどの新刊が発行されている

〇そのため、流通する書籍数も膨大な数になる

ほかの出版物にとってかわることができないというのはわかりますよね。

同じような設定の本であっても、そこに魂を吹き込むのはその著者であり、たとえまったく同じ設定だったとしても、まるで別の物語が生まれます。

毎年発行される新刊はなんと7万点もあるんです!

そんなに絶対に読めないですよね。

2019年(令和元年)で見ると71903点の新刊が出荷されています。

そして、毎年それだけの本が生まれるということは、いったいどれくらいの本がいま、日本に存在するか想像つかなくなりますね。

本というのは、多種多様な人たちが、次々に新しい世界を広げていくことで、文化的にも価値があり、消費者・読者としてもそれが楽しみでもあります。

再販制度とは、こうした本の特殊性にも関係があります。

本が売られている場所といえば、一番多いのは本屋さんですね。

今はネットで購入することもできますし、電子書籍もありますが、それでも圧倒的に本屋さんを利用する人が多いと思います。

書店に訪れて、実際に手に取って読んでみて、いろいろと眺めながら本を選んで購入するのが楽しいですよね。

再販制度はこうした私たちの楽しみを守るためにも存在しています。

もし再販制度がなくなると……

さて、この再販制度がなくなるとどうなるのでしょうか。

次のような消費者にとっての不利益が考えられます。

〇本の種類が少なくなる

〇本の内容に偏りが生まれる

〇価格が高くなるかもしれない

〇遠隔地は都市部よりもより価格が上昇する

〇町の本屋さんが減ってしまう

以下で一つずつ考えていきます。

本の種類が少なくなる

出版社も本屋さんもどちらも商売です。

利益をあげなくては社員に給料も支払えなくなりますし、経営自体が立ちゆかなくてはならなくなくなります。

再販制度がなくなると、より競争が加速します。

価格競争が起きれば、自然と売れない本、興味が持たれない本というのは真っ先に切り捨てられてしまうでしょう。

専門的な本だったり、趣味で一部の人が喜ぶような本が減ってしまったり、存在しなくなるかもしれません。

本の内容に偏りが生まれる

本の種類だけでなく、本の内容にも偏りが生まれるかもしれません。

そのときの流行りすたりにあわせて、消費者が気に入るような本ばかりが出てくるかもしれません。

だってそうじゃないと売れないんですもん。

そうなると、今、人気があるようなジャンル以外の本って生み出されづらいですよね。

最初は売れなくて人気がなくても、あるときその良さを気づく人たちが出てきて一気に人気が出る!なんてことはなくなってしまうのでは……。

新しい世界を発掘するのが楽しい本の世界なのにそれでは魅力が半減です。

価格が高くなるかもしれない

価格が高くなる可能性もあります。

「価格競争が起きたら安くなるのでは?」

と感じそうなところですが、上記したように、本に偏りが出て、本の数がそもそも減っていくと、当然売れる本も減っていきますよね。

出版社も、一冊当たりいくらくらいの利益があって、これくらい売れるからやっていける!という風に考えて値段を決めています。

でも、そもそも本の数が減り、売れる総数が減るなら、利益を確保するためには本の価格を上げるしかありません。

遠隔地は都市部よりもより価格が上昇する

さらにいってしまうと、今は全国一律の価格ですが、遠隔地はより価格が上昇してしまうでしょう。

運ぶのだってコストがかかりますもんね。

東京などの都心部から、沖縄などの遠いところや、離島などの行くのが大変な場所に運ぶのと、そのまま都心部で売るのではぜんぜん違います。

そこの人たちがたくさん買ってくれるならそれでよいですが、運んだコストと売って得た利益を考えると、都心部と同じ値段だと赤字になるかもしれません。

そうなるとその利益を確保するためには、運ぶコストが本の価格に上乗せされることが考えられます。

町の本屋さんが減ってしまう

価格競争が起きると、不利なのは小規模で経営をしている本屋さんですね。

大きな本屋さんとまともに価格競争をしても、なかなか勝つことができなくなります。

そうすると当然、安く販売している大手で買いたくなります。

いまでさえ、本屋さんがどんどん姿を消しているのに、その流れに拍車がかかるでしょう。

 

こうした理由からも、再販制度は維持されているのだと考えられています。

再販制度を法律でみてみると……

少し堅苦しい話になります。

再販制度がどういった法律をもとに存在するのかを考えていきましょう。

再販制度に関わる法律は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」いわゆる「独占禁止法」です。

もともと、独占禁止法の中では、再販売価格を拘束することを禁止していました。

しかし、1953年の改正によって、著作物に限り再販制度が認められることになりました。

つまり、原則は禁止だけど本などはその例外として認められているということです。

独占禁止法の条文をみていきましょう。

第一条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。

第一条は、ほとんどの法律で、その法律の目的や意義が書かれています。

独占禁止法でも同様ですね。

ざっくりいえば、不当な制限や不当な拘束のない、公正で自由な競争をしよう!

それによって事業を盛んにして、雇用もできるようにして、国民の所得も高めよう!

消費者の利益も確保しながら経済を健全に発達させていこう!

というものです。

次に第二条で、独占禁止法で出てくる言葉の定義を記しています。

再販制度に関係するところでいえば、第二条9項4号の「不公正な取引方法」が該当します。

第二条

⑼この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

四 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。

イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。

ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。

本当だったら販売店で自由に価格設定できるのに、正当な理由もなく、メーカーが決めた価格(定価とか希望小売価格とか)で販売することを条件に商品を供給すること。

それが不公正な取引方法になります。

そして下記の第十九条で、不公正な取引方法はだめだよといっているわけです。

第十九条
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

ここまでの条文で、販売店が自由に価格設定ができることが記されたことになります。

ここで終わりだったら本についても同様に定価に固定することはできないのですが、その例外としての条文があります。

それが第二十三条の「再販売価格維持」です。

第二十三条
この法律の規定は、公正取引委員会の指定する商品であつて、その品質が一様であることを容易に識別することができるものを生産し、又は販売する事業者が、当該商品の販売の相手方たる事業者とその商品の再販売価格(その相手方たる事業者又はその相手方たる事業者の販売する当該商品を買い受けて販売する事業者がその商品を販売する価格をいう。以下同じ。)を決定し、これを維持するためにする正当な行為については、これを適用しない。ただし、当該行為が一般消費者の利益を不当に害することとなる場合及びその商品を販売する事業者がする行為にあつてはその商品を生産する事業者の意に反してする場合は、この限りでない。

(4)著作物を発行する事業者又はその発行する物を販売する事業者が、その物の販売の相手方たる事業者とその物の再販売価格を決定し、これを維持するためにする正当な行為についても、第一項と同様とする。

ここもぱっと読んで意味がわかりづらい条文ですね。

公正取引委員会が指定する商品であれば、独占禁止法の規定は適用しませんよ。

でも消費者の利益を不当に害したり、生産者の意に反していてはだめですよということです。

そして第二十三条4項で、「著作物」についても同様であるとしています。

この「著作物」の中に書籍や雑誌が含まれているので、本については定価販売となっているのです。

「著作物」って何を指しているの?

さて、「著作物」に書籍や雑誌が含まれていると書きましたが、これ自体は独占禁止法の中で明言されていないんですね。

じゃあどこに定められているのかというと、公正取引委員会の審判審決というものがあります。

裁判における判決のように、公正取引委員会が、それが独占禁止法に違反していないかを判断するものです。

平成十三年八月一日に、著作物の再販についての審判審決がありました。

(株)ソニー・コンピュータエンタテインメントに対する審決です。

それは、ゲームソフトについてもこの再販制度が適用されるのではないかというものでした。

「本条四項による著作物の再販適用除外制度は、書籍、雑誌、新聞及びレコード盤の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものであり、同条同項の「著作物」とは、書籍、雑誌、新聞及びレコード盤並びにそれらの品目とその機能・効用が同一であるものをいう。」

「音楽用テープ及び音楽用CDについては、レコード盤とその機能・効用が同一であることから、同条同項の「著作物」に該当する。他方、ゲームソフトについては、レコード盤とその機能・効用が同一であるとはいえず、同条同項の「著作物」に該当しない。」

(平成十三年八月一日 公正取引委員会審判審決 判時一七六〇一三九より)

これは比較的意味がわかりやすいですね。

6つの品目については独占禁止法でいうところの「著作物」にあたるけれど、ゲームソフトは「著作物」に入りませんよという結論が出ています。

ここから「著作物」とは、

〇書籍

〇雑誌

〇新聞

〇レコード盤

〇音楽用テープ

〇音楽用CD

の6つが該当することになります。

再販制度の今後は?

こうして再販制度が現在も維持されているわけですが、今後もずっと再販制度が残るかはわかりません。

この記事を書いている現時点では、すぐになくなるということはなさそうですね。

しかし、公正取引委員会は競争政策の観点からすると、この適用除外にあたる再販制度は廃止すべきと考えているようです。

ただ、文化・公共面での影響が生じる恐れがあることや、再販制度を維持したいという声も多いこと、国民的合意がなされていないことなどから今も再販制度は据え置かれているという状況です。

今は、紙の書籍や雑誌だけでなく、電子書籍など本を取り巻く環境も変化してきています。

たとえば、電子書籍がこれまで以上に発展して、本の主流となるようなときがくれば、上記した問題も多くは解決するので、再販制度も必要なくなるかもしれません。

まあ、電子書籍が広がると、今度は本屋さんを始めとする販売店が困るからそれはそれでどうするかという問題が浮かんできますが……。

おわりに

以上、本の再販制度についてでした。

細かいことをあげればもっとあるのですがひとまず、

〇再販制度があるから本は定価で売られている

〇再販制度は独占禁止法によって規定されている

ということがわかってもらえれば十分かなと思います。

近年、読書離れだといわれたり、本屋さんの数が減ってきていたり、電子書籍が広まり始めたりと、本を巡る環境は大きく変わってきています。

10年後、20年後にはさらに今とは違った状態になっていることでしょう。

そのときには、再販制度もどうなっているかわからないですし、本の形態もまた変化しているかもしれませんね。

どんな状況になっていても、消費者が本を楽しむことができ、素敵な本が生まれ続けてくれることを願っています。