一つの言葉の中にも、周囲がこうだと思う意味と、本人が意図した意味が異なることってけっこうあります。
このタイトルはまさにそれだなと感じました。
今回読んだのは、芦沢央さんの『許されようとは思いません』です。
デビューから五作目にあたる短編小説になります。
表題作を含めた全五編。
出来事の裏にある真実という点で、感じ入るものがあります。
ちょっとぞくっとする部分もあって、芦沢央さんにはまってしまいます。
ここでは、『許されようとは思いません』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『許されようとは思いません』のあらすじ
〇許されようとは思いません
〇目撃者はいなかった
〇ありがとう、ばあば
〇姉のように
〇絵の中の男
【許されようとは思いません】
祖母の納骨のために寒村を訪れた青年とその交際相手。
青年の祖母は、かつて人を殺した罪に問われていた。
祖母は、殺人事件の裁判の席で、自身のやったことを認め、「許されようとは思いません」という言葉を残した。
その言葉の真意とは。
祖母は、なぜそんな事件を起こしたのか。
その村へと向かう中で、その真実を知ることになる。
そのほかの四編を含め、いずれも人の心の闇に触れる作品。
芦沢央さんの短編は見事
短編小説って、長編小説がすごく上手な作家さんでも、
「短編はちょっと……」
と感じることがあります。
でも、芦沢央さんは、その短編一つ一つがいずれも見事!
というか、長編小説の数が少ないのですが、短編の方が好きなんでしょうか。
『汚れた手をそこで拭かない』も『火のないところに煙は』もどこから読んでもおもしろく。
短編なので長くはないのですが、その中で読者の疑問を持たせ、物語に引き込み、しっかり落ちまでつけるという。
私は短編小説って、一つ読んだら、いったん本を置くことが多いのですが、芦沢央さんの短編小説だと、そのまますぐに次の話を読み始めてしまいます。
それくらい上手だなと感じます。
比較すると明らかにうまくなっている!
芦沢央さんの小説を、出た順番に読んでいくと、明らかに文章もストーリーも巧みになっていっていることがわかります。
今回読んだ『許されようとは思いません』と『汚れた手をそこで拭かない』で比較してみると明白です。
例えば、『許されようとは思いません』の「目撃者はいなかった」と、『汚れた手をそこで拭かない』の「埋め合わせ」。
この二つは、どちらも若者が仕事中のミスを犯してしまう話です。
ミスなので、もちろんよくないことですが、どちらもしっかりと報告をして謝罪すれば、怒られはするでしょうが、大きな問題には発展しないであろうものです。
でも、
「どうにか誤魔化せないか」
と考えてしまい、必死に頭を回転させて、誤魔化す方向に動いてしまい……。
といった話です。
「目撃者はいなかった」と「埋め合わせ」では、主人公の思考の部分でも、話の落ちの部分でも、後者の方がよりリアルな感じます。
主人公がミスに気づいたときの心理描写も、「埋め合わせ」の方が、気持ちが素直に謝るべきか隠すべきかで揺れ動くところなんか、ずいぶんと巧みになったなと感じる部分です。
そうした読み方も一つおもしろいかなと思い紹介しました。
おわりに
芦沢央さんの作品は、人の内面を見事に描く作品が多いです。
それでいて、すごく癖があるというわけでもなく、多くの人に受け入れられるかなと思うだけの土壌があり気がします。
私がいま友人に紹介するとしたら、芦沢央さんはまず名前が挙がるかな。
まだ、四作品しか読んでいませんが、気づけば私の好きな作家の上位に食い込んできていて、読み進めていくのが楽しみです。