鯨井あめ

人生とは君にとってなにか、が見えてくる物語。『白紙を歩く』鯨井あめ

人生って言葉に対してそれをどう捉えるかって人によって違うもの。

でも、そういうことって、ふだん生きているとあまり意識しないのかなとも思います。

この本はそうしたことを考えるいいきっかけでした。

今回読んだのは、鯨井あめさんの『白紙を歩く』です!

接点のなさそうな女子高生二人がひょうなことから関係を持ち、自分の内面と向き合っていく話です。

小説好きな人と、小説が苦手な人の温度差ってかなりわかるなーと思いながら楽しく読ませていただきました。

ここでは、『白紙を歩く』の感想や思ったことなどを紹介していきます。

Contents

『白紙を歩く』のあらすじ

天才ランナーと小説家志望。人生の分岐路で交差する2人の女子高生の友情物語。

ただ、走っていた。
ただ、書いていた。
君に出会うまでは――。

立ち止まった時間も、言い合った時間も、無力さを感じた時間も。無駄だと感じていたすべての時間を掬い上げる長編小説。

「あなたをモデルに、小説を書いてもいい?」
ケガをきっかけに自分には“走る理由”がないことに気付いた陸上部のエース、定本風香。「物語は人を救う」と信じている小説家志望の明戸類。梅雨明けの司書室で2人は出会った。
付かず離れずの距離感を保ちながら同じ時間を過ごしていくうちに「自分と陸上」「自分と小説」に真剣に向き合うようになっていく風香と類。性格も好きなことも正反対。だけど、君と出会わなければ気付けなかったことがある。

ハッピーでもバッドでもない、でも決して無駄にはできない青春がここに“在る”。

(幻冬舎HPより)

人生とはなんなのか。

『白紙を歩く』での一つのテーマは人生。

人生とはなにか。

本書の中ではいろんな人がそれぞれの考える人生について語っています。

人生とはストーリー、人生とはメモ帳、人生とは思い出、人生とはドラマ。

きっとそれはその人にとっての答えなんですよね。

どれが正しいとか間違っているってわけではなく、でも、自分が考えて考えて、自分のものにしてきた答えなのかなと思います。

思考はやがて自分になっていく

(鯨井あめ『白紙を歩く』より)

という言葉が出てきますがこれはかなりしっくり。

そのときに考えたことだけですべてが完結しない。

思考したことが少しずつ自分を形成していく。

それだって、ちょっとしたきっかけでまた形を変えていくものなんだろうなって思います。

「意味のある人生にしたい」

なんていう人もいるけど、意味なんて勝手につければいいんじゃないかなとも。

主人公の一人である類は、「人生はストーリー」だと言います。

だから、最後は自分が決めた終わり方をしたい、と。

そういえばnoteでフォローしている方の書き出しがいつも、「人生は物語」なんですよね。

最初見たときは、なるほどなーそういう見方をしているんだと感じました。

一方で本書の中では人生の白紙の部分もたくさんあるって話も出てきます。

物語に上がることのないような時間。

それは無駄な時間とも言えるのかもしれない。

しばらくしたら忘れ去られていく時間なのかもしれない。

でも、それだって自分を形作っていく一つの場面なのだとも言えます。

人生って答えがないものだと思うんですけど、こうやって考えることってけっこう好きで、そういうきっかけをくれる本もまた良いなっていつも思います。

ちなみに私にとって人生とはなんじゃろかと考えると、「人生とは選び取っていくもの」ってイメージです。

ごろごろするのも、さぼったりするのも、遮二無二になって頑張るのも、全部自分の選択。

その選択の積み重ねが人生なのかなーと。

思えば変な選択もたくさんしてきたなと。

人生とはあまり振り返りたくないもの、ですね。

小説の力っていう話

『白紙を歩く』では、主人公の類は、「小説は万能」と主張しています。

自分はつらいときに小説に救われた。

小説にはそれだけの力があるのだ、と。

一方でそんなに特別視する物ではないという人も出てきます。

割と下記のセリフなんかは好きでした。

「無理に何かを得ようとしなくていい。アドバイスはあくまでアドバイスで、小説はあくまで小説だ」

(鯨井あめ『白紙を歩く』P139より)

「だって、たかが本です。されど本かもしれないけど、それでも、所詮は本」

(鯨井あめ『白紙を歩く』P158より)

私はどちらかというと、本とか小説には力があると信じている派ですね。

自分自身、小学生の頃から図書室が好きで、本が好きで。

勉強はそれなりにできましたが、運動は苦手で、ほかの人に誇れるものも大してなかったんですよね。

その中で、読書だけは自分が自信を持って好きだと言えるものだったし、そのことが一つの誇りのようにもなっていました。

でもあらためて周囲を見てみても、本を読んでいる人ってあまりいないものなんですよね。

職場の人でも、小説について語り合える人って、今は3、4人くらいかなー。

50人くらいいる職場なので一割以下ってところでしょうか。

小説は読んでいて疲れるなんて言われることもあるし、漫画とかアニメの方が好きとも言われたりしますけど、それはそれでいいのかなって気もします。

もちろん、小説にはもっと多くの人が触れてくれると嬉しいし、そういう話もしたい。

小説に力があるのは間違いないと思うし、今だって一冊の本からいろんなことを教えてもらっています。

ただ、その対象がなにかってことですよね。

私はそれが小説だし、先輩はアニメだったりするし、人と会うことで勇気をもらうって人もいます。

小説が好きな私からすると、小説の力はすごいぞーと勧めたくなるけど、合う合わないは当然あって、だからといって小説が力を失くすわけでもない。

それでもきっと、私は知り合いや後輩に本を勧め続けていくのかなって気もしています。

おわりに

『白紙を歩く』を読んだ感想でした!

鯨井あめさん、好きなんですよね。

デビュー作の『晴れ、時々くらげを呼ぶ』から追いかけていますが、二作目の『アイアムマイヒーロー!』も『きらめきを落としても』も、本作もみんないろいろ考えさせてくれて良き。

まだまだ若い作家さんなのでこれからの作品もとても楽しみにしています。