わずかな差が勝負をわける厳しい世界。
その小さな差を見逃さず、自分ができる最高の一皿を提供する。
そんなシェフたちが誇りをかけてしのぎを削る熱い物語。
今回読んだのは、五十嵐貴久さんの『コンクールシェフ!』です!
五十嵐貴久さんといえば、『リカ』シリーズや、『パパと娘の七日間』など、どきどきさせられるおもしろい小説が多いですね。
次はどんな作品かと思ったら料理のコンクールが舞台!
ここでは、『コンクールシェフ!』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『コンクールシェフ!』のあらすじ
日本最大の料理コンクールでYBG(ヤング・ブラッド・グランプリ)。
料理人としてのキャリアが10年未満の若手を対象としたコンクールであり、優勝者は、自分の店を持つことができるという。
YBGが始まって10年目の節目には、これまで以上に有力な6人の料理人が集った。
料理のテーマは、「10年ぶりに会った友人との食事」。
このテーマに特別な想いを持って、浅倉薫はこの舞台へと立った。
口が悪くて人付き合いが下手だが、8大中華すべての修行をした邸 浩然。
フレンチ界の巨匠を父に持つ川縁伶奈。
不思議な魅力を秘めたポルトガル料理人の里中 海。
ミシュラン二つ星レストランのスターシェフを務め、優勝の最有力候補である和田拓実。
40歳で脱サラして和食の板前を目指す山科一人。
そして、シャイで自分に自信がないが、料理への探求心は人一倍の浅倉薫。
45分の料理バトルが終わったとき、優勝を勝ち取るのはいったい誰か。
わずかな差が味を決める世界
料理をまったくしたことがない、という人は少ないと思います。
本格的なものはしたことなくても、カレー作ったとか、ラーメン作ったとかくらいなら、学生だってやりますよね。
とはいえ、そのときに、
「これが味の決め手になる!」
なんて、真剣に考えながら料理をすることって少ないものです。
でも、本物の料理人は違う。
フライパンの油の温度のわずかな差や、入れる塩の量が少しずれることにも気を使う。
食べる人に出すタイミングも、温度の変化で味が変わることまで気にします。
私だって、ごくまれにちょっとお高いお店に行くことはあります。
そのときに、料理人がそこまで考えて作っているとは思いもよりませんでした。
『コンクールシェフ!』では、一皿にかける気持ちが前面に出ていて、そうした料理に対する自分の考えも変えてくれる作品でした。
これまで以上に料理を味わって食べられそうです!
ぶつかり合うことで人間性も研磨されていく
『コンクールシェフ!』の見どころの一つは、それぞれの人としての成長です。
浅倉薫は、自信がなく、シャイな女性でしたが、少しずつ自分から前に出るようになり、自分の持てるものを主張するようになっていきます。
山科一人は、一人だけ44歳という年齢で、引け目を感じていましたが、そこを乗り越えて、自分が信じるものに力を注いでいきます。
個人的に一番好きだったのは、邸 浩然でしたが、そこは小説を読んで確かめてください。
こうした、人間的な成長って、なかなか一人ではできないものです。
同じ方向を目指す人同士、高いレベルの人同士が出会い、ぶつかり合うからこそ、大きな成長が生まれる。
いつも同じところにばかりいて、ぬるま湯のような生活をしていたのでは、まったく変化していかないものです。
翻って、自分自身の今の生活もちょっと考えてしまいます。
これでいいのかなって。
そうした気持ちにもさせてくれる小説ですね。
果たして勝者は誰だったのか?
もちろんコンクールなので、優勝者はたった一人だけです。
では、その人以外は全員敗者なのかというとちょっと違う気もしました。
コンクールとしては、二位以下という結果は明確に出ます。
でも、読んでいると、どの人も、この続きがあるとしたら、ここから一回りも二回りも成長して、日本料理界を背負って立つ人物になっていきそうです。
戦いではあります。
勝者も敗者も明確です。
そうであったとしても、負けた人たちは、多くの者を得て、次のステップに進むことを考えると、勝者に劣らぬくらい大きなものを為し得ています。
こうした特殊な世界だけじゃなく、ふつうに生きる私たちだってそうです。
スポーツだとわかりやすいですね。
勝って得るものも、負けて学ぶものもあります。
ただそこに気づけるか、そこから行動できるかだけの差で。
おわりに
五十嵐貴久さんの作品もそれなりに読んできましたが、こういう小説も書けるのだと今さらながらに思わされました。
物語としては、ものすごいなにか事件が起きるわけではなく、順当にコンクールが進んでいきます。
その中でも人間模様、内面の変化が見どころの作品でした。
しかし、こういう本を読むと、おいしいものが食べたくなる。