この子のもとに、幸せばかりが待っていますように。
悪いものが、来ませんように。
(芦沢央『悪いものが、来ませんように』プロローグより)
プロローグの最後に書かれたこの文章が印象的だった本書。
ここにはいかほどの想いが込められていたのでしょうか。
今回読んだのは、芦沢央さんの『悪いものが、来ませんように』です!
2013年に出版された芦沢央さんの第二作目にあたる長編小説です。
ここでは、『悪いものが、来ませんように』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『悪いものが、来ませんように』のあらすじ
奈津子と紗英という二人の女性を中心とした物語。
紗英は、妹の毬絵の紹介で同じ職場となる助産院に勤めていた。
自分にも子どもが欲しい。
切実に願う紗英だったが、なかなか子どもはできない。
周囲が結婚し、子どもが産まれたころから、距離ができていったことも、紗英を自分だけが取り残されているような気持ちにした。
結婚生活も順調とは言えなかった。
夫が浮気をしていることがわかったからだ。
だが、紗英は直接、夫に問いただすすべを持たなかった。
そんな紗英の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在の奈津子だった。
そして育児中の奈津子も、母や夫、社会となじめず、紗英を心の支えにしていた。
それどころか、「なっちゃんがこう言っているから」と、何かを決断するときの判断の基準になるほどであった。
そんなある日、紗英の夫が他殺死体として発見されるのであった。
かなり好みが分かれそうな小説
読んだ人はわかると思いますが、いわゆるイヤミスというやつです。
嫌な気分になるミステリー小説のことですね。
芦沢央さんの作品って、暗い印象の話がけっこう出てくるんですけど、『悪いものが、来ませんように』はなかなかに読んでいて途中、「ずーん」となります。
そのあたりで、
「なんかあまり好きじゃないかも」
と感じてしまう読者も一定数いるのかなと思います。
ただ、イヤミスではありながら、どんでん返し系でもあります。
なんのこっちゃという感じかもしれませんが、ただでは終わらない小説です。
私も読みながら、
「芦沢央さんの小説にしてはあまり入り込みづらいかも」
と思っていましたが、終盤で、
「おやおや、これは……」
と思わされ、読了後はちょっと不可思議な気持ちとともに、少し遡りながら内容を確認してしまいました。
最後まで読むと、がらりと印象は変わります!
ですので、途中で苦手かもと思っても、最後までしっかり読み切りましょう。
夫婦と子どもと幸せと
子どもの存在って人生においてとても大きなものだと思います。
もちろん、子どもがいるから幸せ、いないから不幸せということではありません。
いようがいまいが、幸せかどうかはその人次第ですから。
ただ、自分の環境が大きく変わることの一つが子どもが産まれることだとは思います。
独身時代と、結婚したあとってかなり変わりますよね。
それでも、独身時代のように友人や同僚と飲みに行ったり、遊びに行ったりもするし、夫婦で出かけたりもします。
しかし、子どもが産まれると、基本的に生活の中心は子ども。
友達とたまに会っても、話す内容は仕事のことから育児のことにシフトしていきます。
付き合う相手も自然と子持ちの友人が増え、独身の友人とは少しずつ距離が空いていったり。
『悪いものが、来ませんように』の中で、紗英がそれまで連絡を取り合っていた友人たちとの距離を感じるのもとてもリアルな話だと感じました。
年賀状のくだりとか、露骨だけど、きっと相手に悪気はないんだけど、苦しいものがあるよなって。
一方で、奈津子が子どもに向ける愛情も、とても深いものがあり、でもそれが行き過ぎて歪んでしまっているのもわからなくはないです。
大切に思えば思うほど、その形が別の方向に行ってしまうなんてことも。
夫婦の関係も、親子の関係も、理想はこうだというものはあっても、そのとおりになんてできないもの。
だから、誰しも悩みながら手探りで進んでいく。
そんなもんだなと。
おわりに
以前、職場の後輩から、
「作家の二作目を読んでおもしろいと思ったら本当におもしろい作家だと思います」
みたいなことを言われ、最近は二作目をそんな気持ちで読んでいます。
そんな視点で見ると、芦沢央さんってやはり力のあるおもしろい作家さんなんだなと感じました。
『悪いものが、来ませんように』は決して私の好みではないんですよ。
あまり暗すぎる感じのものって苦手なので。
道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』も、すごいと思いつつ苦手でしたし。
ただ、好みじゃないけど、いい小説だなとは感じました。
芦沢央さんの読んだ小説も半分を超えたのでこのまま既刊読破していきます。