世の中のいろんな出来事。
それは目に見えているものだけがすべてではないことが往々にしてあるもの。
一つの出来事の裏には人の思惑があったり、意志が介在していたり。
今回読んだのは、芦沢央さんの『バック・ステージ』です。
序幕、四つの短篇、終幕からなる小説です。
まるで一つの舞台を見ているようで、一気に読み切れてしまいます。
ここでは、『バック・ステージ』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『バック・ステージ』のあらすじ
新入社員の松尾と先輩社員の康子。
それまで特に大きな接点のなかった二人だったが、ある日、松尾は、上司の机を漁っている康子を見てしまう。
康子は、パワハラ上司に腹を立てており、上司と取引先との間にある不正の証拠を探そうとしていたのだった。
松尾はその場からこっそりと逃げ出そうとするが、見つかってしまい、なぜかそのまま一緒に証拠探しを手伝う羽目に。
翌日、中野の劇場では松尾たちの会社がプロモーションする人気演出家の舞台が始まろうとしていた。
その裏では、四つの物語が展開され、それが少しずつ関連してステージを進行させていく。
不正探しの裏側では
「序幕」と四つの短篇、「終幕」で構成されている『バック・ステージ』。
この「序幕」と「終幕」が、松尾と康子の会社でのパワハラ上司を巡る話になります。
そしてその間に挟まれた四つの短篇。
『バック・ステージ』というタイトル通り、松尾達とパワハラ上司の対決の裏側で起きていた出来事が描かれています。
一つひとつは独立しているようで、少しずつ重なっています。
連作短編というほど繋がってはいないけれど、ここが繋がっていると思いながら読むのが楽しいです。
個人的には、「始まるまで、あと五分」が好きでした。
気持ちの伝え方って悩むよなあと思いつつ、自分の学生時代に想いを馳せてみたり。
買った人だけが楽しめるカーテンコール
舞台といえばすべてを見終わったあとにあるカーテンコールも楽しみの一つ。
そんな粋な計らいをしているのが、『バック・ステージ』です。
単行本の表紙を外してみると、そこには一連のできごとが終わった後のエピソードが、「カーテン・コール」として描かれているんです。
本編だけでも十分楽しめる一冊なのですが、この短い物語がこの先の二人のことを想像させてくれて、思わずにやりとしてしまいます。
芦沢央さんって、割と読了後に考えさせられる作品が多いんですけど、『バック・ステージ』は、最後に表情が緩んでしまう感じでした。
芦沢央さんにしては明るい話でびっくり!
芦沢央さんの小説って、けっこう後味が悪いものが多かったりします。
デビュー作の『罪の余白』は、みんな苦しい気持ちを抱えていたし、『許されようとは思いません』も、どこか暗い印象。
『火のないところに煙は』は、ちょっとぞわっとした気持ちが残りました。
でも、この『バック・ステージ』は断トツで楽しんで読める一冊だなと感じます。
いろいろあるけど、なんだかんだハッピーエンドみたいな。
どうも、私の中で勝手に、
「芦沢央さんってどこか暗い話を書く人」
みたいに思っていたので、がらりとイメージが変わりました。
いや、もちろんほかの作品も好きなんですよ。
『汚れた手をそこで拭かない』なんて、読み終わってすぐに読み返しちゃいましたし。
人の内面を描くのも上手だし、読者をどきりとさせるのが得意でどれも楽しめます。
でも、たまにこういった明るく終われる話もいいなあと思いました。
おわりに
『バック・ステージ』は、芦沢央さんのデビューから数えて8作品目にあたります。
私は順番気にせず気になったものからどんどん読んでますが、順を追って読んでいく方が、作品の変化とか見えておもしろかったのかなと最近は感じています。
これから読むって人は、順番に読んでみるのもおもしろいかなと。
明らかに文章というか表現が上手くなっていくのがわかります。
もちろん初期の作品もおもしろいのですが。
一作だけなら、『汚れた手をそこで拭かない』がおすすめ。
まだ読んでいない作品も多いので読み進めていきます。