愛する家族が亡くなってしまったとき、自分ならどうするだろうか。
その死の原因を追い求めるか、それとも、亡くなってしまったものとして喪に服すか。
「自分だったら……」
とつい考え込んでしまう作品でした。
今回読んだのは、芦沢央さんの『罪の余白』です。
芦沢央さんは、この『罪の余白』でデビューを飾っています。
2012年の第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞した作品になりますね。
2015年には映画化もされています。
罪とはなんなのか、許すとはなんなのか。
ここでは、『罪の余白』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『罪の余白』のあらすじ
主人公は、大学で行動心理学の講師をしている安藤聡。
ある日、安藤が仕事を終えて携帯電話を確認すると、母親からの大量の着信が入っていた。
一人娘の安藤加奈が高校のベランダから転落死したという訃報であった。
警察からは、事故と自殺の両面で調べを進めていわれ、安藤は愕然とする。
一体、加奈の身に何が起きたのか、自分はなぜ加奈の思いに気づくことができなかったのか。
一か月が過ぎても安藤は悲しみに打ちひしがれていたが、妻の友人で会った小沢早苗の助けによって、なんとか生活を送っていた。
立ち直らなければいけない。
安藤がそう思い始めたときに、安藤の元に加奈のクラスメイトを名乗る少女が現れた。
少女は「加奈は遺書や日記を残していなかったんですか」と尋ねる。
この少女は加奈を死に追いやった人間の一人である木場咲だった。
咲は、加奈が日記を書いていたということを思い出し、自分たちのいじめを記録していないか心配して訪れたのであった。
二人で加奈の日記を探すことになり、ついに日記を見つける。
日記から、加奈の死の真実の一端を知り、娘の復讐を心に誓う安藤。
一方で咲は、自身の責任が追及されないように奔走する。
テーマ自体はよくあるものだが、描き方がよい
家族を死に追いやられて復讐をする。
割といろんな場面で使われているテーマではあります。
東野圭吾さんの『さまよう刃』なんて、復讐物としてはすごく強烈でしたね。
湊かなえさんの『告白』も、娘を殺された母親による復讐でした。
でも、似たテーマであっても、描き方一つでまったく別の作品になるのだと感じさせてくれる一冊です。
そもそも、『罪の余白』では、加奈の死が、自殺なのか、事故によるものなのか、はっきりと父親の安藤は知りません。
自殺なのだとしても、その理由もわからず、悩んでいたことに気づけなかった安藤は苦悩します。
自分も家族を持つ身だからこそ、感情移入しやすい話ではありました。
ベタの描写が良い
私は、『罪の余白』でベタという魚の存在を知りました。
闘魚とも呼ばれるベタですが、画像を検索するとこれがまた美しい魚で驚きます。
知らない魚だったのですが、その特徴などをしっかりと描いているので、知らなくてもそこにあるものとして感じられてよかったです。
正確な記述は覚えていないのですが、ベタの雄同士を同じ水槽に入れたままにしてはいけないというものがありました。
雄同士は、一緒にすると闘ってしまう。
自然の中に入れば、負けても逃げればいいが、水槽では逃げ場がなくて、ぼろぼろになってしまうというのです。
小説って、基本的には結末とかストーリーに関係のない描写って少ないと思います。
このベタの雄同士の特徴も、高校という一つの閉鎖空間の息苦しさを表現していたのかなと思いながら読ませてもらいました。
おわりに
芦沢央さんの作品は、この『罪の余白』で読んだのは三冊目でした。
『火のないところに煙は』、『汚れた手をそこで拭かない』のあとにさかのぼってデビュー作を読んだのですが、明らかに最初に読んだ二冊の方が文章が洗練されているんですよね。
こうした部分も感じられるのが、デビュー作を読む醍醐味なのかなって気もしました。
残りの作品もちょっとずつ読み進めていきます。