読書好きの40代サラリーマンです。日々仕事や家庭の雑務に追われながら過ごしていると、ふとした瞬間に「自分は要領よく生きられているだろうか」「身近な人をちゃんと大切にできているだろうか」と立ち止まってしまうことがあります。

今回ご紹介するのは、そんな日々にそっと寄り添い、胸の奥をじわじわと温めてくれる一冊。

小野寺史宜さんの『片見里足立アフェクション』です。

タイトルにある「片見里(かたみざと)」は、著者の作品で親しまれている架空の町。「アフェクション(affection)」とは「情愛」や「慈しみ」、「愛着」といった意味を持ちます。

読んでいて愛着がけっこうしっくりくるなあという印象です。

小野寺史宜さんの『片見里』シリーズの三作目にあたります。

不器用で、どこかバカ真面目で、けれど愛おしい市井の人々が繰り広げるドラマを通して、私たちが日常で忘れかけている「大切な人を想う気持ち」を再発見させてくれる傑作です。

仕事帰り、居酒屋やファミレスの明かりをふと見外したとき、その窓の向こうで乾杯している人たち一人ひとりに、それぞれの人生があり、それぞれの悩みやドラマがあるのだと感じたことはありませんか?

本屋大賞2位に輝いた『ひと』をはじめ、普通の人々の生き方をあたたかな眼差しで描き続ける小野寺史宜さん。

その最新作『片見里足立アフェクション』は、不器用な姉弟と彼らを取り巻く人々の日常を、軽妙かつ味わい深いタッチで描いた人情味あふれる長編小説です。

1. 『片見里足立アフェクション』のあらすじ

物語の中心となるのは、千葉県にある架空の故郷「片見里(かたみざと)」出身で、現在は東京で暮らす一卵性ならぬ“対照的”な姉弟です。

  • 姉・洋(よう): 惚れっぽく、生き方が不器用で男運がない。すぐに男性に貢いでしまう癖がある。
  • 弟・央(おう): 大手銀行に勤めるエリート。何事もそつなくこなすが、不器用な姉のことがいつも心配でならない。

ある日、姉の洋にマッチングアプリで出会った商社マンの新恋人ができます。浮かれる姉を見て、弟の央は「また変な男に騙されているのでは……」とヒヤヒヤ。

一方で、当の央も合コンで出会った女性となんとなく付き合い始めるのですが、二人の恋路はどこか“不穏な”空気を漂わせ始めます。

お互いの恋愛を心底心配し合う姉弟。そんな二人を軸に、故郷・片見里の「なまぐさ坊主」や探偵、公務員といった一癖も二癖もある魅力的な面々が絡み合い、物語は東京(足立区や八重洲、丸の内など)と片見里を行き来しながら、思いもよらない展開へと動き出します。

2. 40代のいま、この作品に深く引き込まれた理由

小野寺作品の最大の魅力は、「どこにでもいそうな普通の人々」に対する圧倒的な解像度と優しさです。

作中に登場する人々は、決して完璧ではありません。どこかしら不格好で、情に流されやすかったり、意地を張ってしまったり、世渡りが下手だったりします。

40代になり、職場で中間管理職的な立場になったり、家庭で様々な責任を背負うようになると、自分自身の限界や「器用になれない部分」と嫌でも向き合わされます。

「もっと上手く立ち回れればいいのに」とため息をつく夜もあります。

しかし、本書を読んでいると、「バカ真面目で不器用な生き方だって、決して間違っていないんだ」と肩の力を抜いてもらえるような安心感を覚えるのです。

特に、ファミレスのハッピーアワーや八重洲の居酒屋、焼き鳥屋、夜景の見えるバーなど、日常のさまざまな場所で交わされる「乾杯」のシーン。グラスを傾ける登場人物たちのやり取りから醸し出される“無骨な情緒”が、疲れた大人の心にじわじわと染み渡ります。

3. 心に残ったポイントと感動したシーン

① 互いを想い合うからこその「もどかしいおせっかい」

姉の洋は、一見すると「男運がなくて騙されやすいダメな姉」に見えます。しかし、彼女の行動の根底にはいつもまっすぐな情熱と優しさがあります。

そして弟の央は、エリートらしく冷静を装いながらも、姉のことになると平常心を失ってソワソワしてしまう。

「身内だからこそ、素直になれない」「心配だからこそ、口うるさくなってしまう」——この姉弟のやり取りの中に流れる家族の絆(アフェクション)が、本当に愛おしいのです。誰かを真剣に心配できるということ自体が、一つの大きな才能であり優しさなのだと感じさせられます。

② 故郷・片見里の「ゆるやかで温かい繋がり」

作品の背景として効いているのが、故郷である「片見里」という土地とその仲間たちです。

東京という大都会で暮らしていても、ふとした瞬間に片見里の人物(お寺の住職や地元の知人など)と線が繋がっていく。都会の孤独感の中で、自分を根っこで支えてくれる「故郷の気配」があることの安心感が心地よく描かれています。

人間関係が希薄になりがちな現代において、お互いの顔が見えるゆるやかなコミュニティの尊さを再認識させられました。

4. この本から学んだ「明日からの生き方」

1. 人の「不器用さ」を愛すること

要領よくスマートに生きることだけが正解ではありません。遠回りしたり、人に騙されそうになったりしながらも、誰かを信じてまっすぐ生きようとする姿には、数値では測れない美しさがあります。

自分自身の不器用さや、周りの人の失敗に対しても、少しだけ寛容になれる優しさを学びました。

2. ささやかな日常の「乾杯」を愛おしむこと

物語の中では、高級な酒であろうと、ファミレスの安いレモンサワーであろうと、誰かと向き合って交わす「乾杯」にそれぞれの人生のドラマが宿っています。

「今日も一日、無事に終わった」「いろいろあるけれど、とりあえず乾杯しよう」。 そうやって日常の小さな区切りを誰かと分かち合うことこそが、人生を豊かにしてくれるのだと気づかされます。

5. どんな人におすすめしたいか

  • 毎日の仕事や人間関係に少し疲れて、温かい話に癒やされたい方
  • 小野寺史宜さんの作品(『ひと』や『まち』など)の雰囲気が好きな方
  • 兄弟姉妹や家族との関係性について、ふと考えさせられたい方
  • 読後に「よし、明日も頑張ろう」と爽やかな気持ちになりたい方

長編ですが文章がとても軽快で読みやすく、ページをめくる手が止まらなくなります。仕事帰りの電車の中や、休日のカフェでじっくり読むのに最高の相棒になってくれるはずです。

おわりに——小さき人生を送るすべての人へ

読み終えたあと、タイトルの『片見里足立アフェクション』という言葉の意味が、温かい実感となって胸に広がりました。

特別なヒーローや劇的な事件は起きないかもしれません。しかし、毎日を懸命に生き、身近な人を思いやり、時に失敗しながらも笑って乾杯する。そんな「小さき人生」を送るすべての人に向けた、最高の応援歌のような小説です。

もし本屋さんで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。あなたの日常にも、きっと優しい光を灯してくれるはずです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!