なにか失敗が起きた時に、つい誤魔化してしまおうかと思うのは人の性です。
でも、大抵の場合、隠しきることってできないものなんですよね。
今回読んだのは、芦沢央さんの『汚れた手をそこで拭かない』です。
2020年に出版された本書。
2021年には、第164回直木三十五賞候補、第42回吉川英治文学新人賞候補としてノミネートされるなど、高い評価を受けた作品です。
ここでは、『汚れた手をそこで拭かない』のあらすじや感想を紹介していきます。
Contents
『汚れた手をそこで拭かない』のあらすじ
〇ただ、運が悪かっただけ
〇埋め合わせ
〇忘却
〇お蔵入り
〇ミモザ
上記五つからなる短編集。
【ただ、運が悪かっただけ】
末期癌で余命半年の十和子は、残り少ない日々を自宅で過ごしていた。
いつも隣の部屋でカンナを使って木を削る夫の様子が変であることに気づく。
自分はもう余命いくばくもない。
ならせめて、夫の背負っているものを持っていこうではないか。
十和子は、夫がずっと隠してきたことを打ち明けてほしいと話す。
しばらく逡巡する夫であったが、ついに夫があることを告白する。
それは、「人を死なせたことがある」というものであった。
夫の話を聞いた十和子は、あることに気づく。
隠そうとすればするほど墓穴を掘る
私が、『汚れた手をそこで拭かない』で一番好きなのは、「埋め合わせ」です。
とある教師が学校のプールの水を誤って大量に流してしまうという話です。
そこから、教師は必死になって考えます。
いったいこれはどれくらいの問題になるのか。
どんな処罰を受けてしまうのか。
水を流した被害はどれくらいなのか。
そして、最終的にこれをどうにかごまかせないかって思ってしまうんですね。
失敗って誰にだってあることで、人間生きていれば失敗しないわけがない。
私だってなんだかんだ社会人になって14年目となりましたが、そりゃもうたくさんの失敗をしてきました。
怒られることも処罰されることもあります。
ただ、怒られようと処罰されようと、そんなに大したことではないと考えています。
次に失敗しなければいいし、失敗がそこまで致命的なものでなければそれで、と。
でも、中にはそれを隠そうとしたり、誤魔化そうとしたりする人もいるのが事実です。
私の後輩も、頼まれていた仕事をやっていなくて、適当にその場を誤魔化そうとして、余計に怒られるということを繰り返していました。
一度だけなら許せるのですが、繰り返すんですよね。
そういうのって、もうその人の本質みたいなものなのかなって思ってしまいます。
すぐに正直にやってませんと言えばなんとでもなるようなことでも、隠そうとして嘘をつくから大事になる。
まさにそんなことを描いた小説で、教訓にもなるようなおもしろい話でした。
人間正直が一番です。
失敗したら素直に認めて謝りましょう。
タイトルがまたいい
『汚れた手をそこで拭かない』ってタイトル。
芦沢央さんの小説ってどれもタイトルが興味をそそるんですよね。
『許されようとは思いません』も、『火のないところに煙は』も。
読者にその先を想像させるなにかを持っています。
デビュー作は、『罪の余白』ってタイトルでしたね。
これはこれで、なにが余白にあたるんだろうって考えながら読ませてもらいました。
でも、セリフとしてありそうなこうしたタイトルの方が、個人的には好きです。
『汚れた手をそこで拭かない』って、どこかに出てくるわけではありません。
たぶん……見落としていなければ。
だからこそ、五つの短編とタイトルを見比べて、想像を膨らませてしまいます。
おわりに
『汚れた手をそこで拭かない』が私が読んだ芦沢央さんの二冊目になります。
このあと、『許されようとは思いません』と『罪の余白』を読みました。
そこで感じたのは、同じく短編ですが、先に出版された『許されようとは思いません』から、今回読んだ『汚れた手をそこで拭かない』との違い。
作品の雰囲気とか、結末に持っていく感じは似ていますが、文章力というか、説得力というか、読んでいて引き込まれる力は、圧倒的に後者の方が強いんですね。
新しい作品を書く中で、どんどん小説が魅力的になっていく作家さんなんだなって思いました。
最新の小説はまだ読めていませんが、これから読むのがとても楽しみです。