私はふだんホラーとか怪談ものってあまり読みません。
映画でもちょっと苦手な分野になるので、好んで読まないのですが、ついつい手を伸ばしてしまいました。
今回読んだのは、芦沢央さんの『火のないところに煙は』です。
私は初めて読む作家さんだったのですが、いろいろと賞を取っている人気作家さんなんですね。
デビューは2012年の第3回野生時代フロンティア文学賞を受賞した『罪の余白』。
2017年には、『許されようとは思いません』で第38回吉川英治文学新人賞を受賞。
読むきっかけはYouTubeのほんタメで紹介されたのかな。たぶん。
ページをめくる手が止まらず、仕事の休憩時間に先輩の話を無視してしまうくらいにおもしろかったです。
Contents
『火のないところに煙は』のあらすじ
作家である「私」に小説新潮から、
「神楽坂をテーマにした怪談を書きませんか?」
という依頼が舞い込んでくる。
私は、友人を介して受けた依頼の話を小説という形で書いた。
そこには、私がすることができなかった後悔も込めて。
それ以降、「私」のもとには、怪談話が寄せられてくるようになり、その中からいくつかを小説として形にしていく。
怪談に触れ、考え、話にすることで、知らず知らずに縁を作っていることに気づかずに。
ジャンルはホラー
ホラー系の小説ってあまり読まないですよね、いつもは。
でも、どうもタイトルも気になるし、ほかの人が紹介しているから読んでみようかなって軽い気持ちで手に取り……。
いやこれがなかなかに怖いんですよね。
いかにもホラーな感じのホラーの本って、
「まあお話だもんね」
という気持ちで楽しく読めるんですけど、『火のないところに煙は』ってすごくリアル。
まるで現実に起こったことのように描かれているから恐ろしい。
ここで描かれているのは、どれも日常なんですよね。
だからこそ、日常で起きたちょっとした事件が、実は怪異によるものだったのでは、と思わされてしまいます。
もしかしたら、自分が耳にするちょっと変わった事件も、そうしたたぐいのものなのかもしれません。
人の手が及ばないものだからこそ、近づいてはいけない、触れてはいけない。
もしかしたら、私自身も近づいてしまっているのではないかと怖くなります。
寝る前でも、最後まで読み切りたくて一気読みし、布団に入ると妙に考え込んでしまいました。
「絶対に疑ってはいけないの」
いや無理だし……。
こういうこと言わないで!って思っちゃいます。
小説を読んでいると、心に刺さる言葉ってありますよね。
『火のないところに煙は』だと、名言とかではないのですが、頭から離れなくなる言葉もありました。
「絶対に疑ってはいけないの」
読んでいくと、この言葉がすごく重く、のしかかってきます。
でも、疑わずに生き続けるって、なんて難しいことなんだろうなって感じます。
ということは、もうそもそもこの人に出会った時点で、最後の姿は運命づけられてしまっているのかな。
なんにせよ、安易な気持ちで踏み込むことは危険だと思いました。
読者の意表を突く終わり方
ホラー、怪談ものといっても、きちんと小説としても優秀な話ばかり。
しっかりと読者の意表を突いてきます。
なんとなく話の流れからしてこういう終わり方かなと想像していると、
「あれ?こうなっちゃうの?」
と予測をひっくり返されてどきりとします。
そうした巧さが全編にあたって出てきていて、芦沢央さんの技術と思考力の高さを感じさせてくれます。
予定調和な内容よりも、こうした驚きがある小説っていいですね。
おわりに
とてもいい小説で芦沢央さんのファンになりそうなくらいですが一つ注意。
うまく区切らないと気になって仕事に集中できなくなります。
もうね、中途半端なところで止めてはダメだなって思いました。
芦沢央さんの小説は気になるタイトルの物がたくさんあるので、これからほかの作品も読もうと思います。